“感情の見える化”で、すべての人がイキイキと働ける世の中を
- 今西 良光(いまにし よしみつ)
- 株式会社Emotion Tech 代表取締役社長
2006年に大学卒業後、新卒で株式会社日立製作所に入社。官公庁向けITソリューションやシステムコンサルティングサービスの提案営業を行う。2010年に株式会社ファーストリテイリングに転職し、「ユニクロ」の店舗マネジメント業務に従事。2012年に退職後、2013年3月 株式会社wizpra[ウィズプラ]創業。ほめる社内SNS『Pozica[ポジカ]』を開発。2016年12月、株式会社Emotion Techに社名変更。顧客の声を起点とした経営課題の解決、サービス品質の向上を行うサービス『Emotion Tech』開発・運営する。 <株式会社Emotion Tech> 創業/2004年3月 本社所在地/東京都中央区八重洲2-2-10 南星八重洲ビル4階 最寄り駅/京橋 ※本文内の対象者の役職はすべて取材当初のものとなります。
満足度を向上させるクラウドサービス『Emotion Tech』
―株式会社Emotion Techの事業内容について教えてください。
商品や企業に対して顧客が持っている感情やイメージをデータ化し、分析するクラウドサービス『Emotion Tech』を運営しています。集約、分析したデータをもとに、収益改善や社員の働く意欲につなげてもらうのが目的です。
具体的には、アンケートなどによって得た顧客や働く人の声、つまり感情データを分析し、より満足してもらうためには何が必要なのかを“見える化”しています。これによって改善点が見えやすくなり、結果社員のやる気を引き出すことにもつながるので、社内環境の向上を目指す企業や、顧客満足度を高めたい店舗で導入されています。
―商品や企業イメージについて顧客に問う方法というと「店舗アンケート」などが思い浮かびますが、そうした従来の調査や指標とは違うものですか?
『Emotion Tech』には、弊社が独自で開発した分析ロジックを搭載していますが、“人の感情面”を数値化する『NPS』(Net Promoter Score/ネットプロモータースコア)という指標がもとになっています。
『NPS』は「この商品をどの程度、人にすすめたいと思いますか?点数をつけてください」といった質問から顧客の好意や印象を計測したもので、従来の顧客満足度調査よりもより企業売上に結びつきやすい指標として注目されています。AmazonやGoogleなど、多くの大手海外企業も導入しています。
『Emotion Tech』は、この『NPS』を活用して得た数的なデータに加えてコメントを分析し、サービスを提供しているのです。
―今西さんの、今の仕事のやりがいは何ですか?
自分たちが主体的に関わってつくりだしたサービスに対して、“クライアントのリアクション”が近い距離で見られることですね。
クライアントは私たちが提供するシステムを使って、「お客様が商品についてどのように思っているか」「満足しているか」を、アンケートデータとして取得できます。分析されたデータはリアルタイムで見られるため、クライアントは自社の現状をすぐに把握することが可能です。
そこでこれまで見えてこなかった顧客の想いが伝わったり、企業の成長につながる改善点が浮き彫りになると、「役立てていただいているんだな」と感じます。
ちなみに弊社もクライアントから、提供しているサービスについてアンケートを取っています。取引先である企業の皆さんが弊社のシステムをどのように感じているのかを常に把握するようにしているんです。
―クライアントの業務向上にもつながり、御社もよりよいサービスの提供へ役立てていらっしゃるのですね。みんなで良い方向に進もうとする今西さんのお気持ちが伝わってきます。
ありがとうございます。『Emotion Tech』を利用してくださるクライアントの皆さんには、顧客から得た情報を業務向上に活かして、働きやすい環境をつくっていただきたいんです。
そして私たちはクライアントの皆さんから『Emotion Tech』で取得した情報を活かして、皆さんによりよいサービスを提供できる企業として進化していきたいと考えています。
みんなで目標達成を目指したユニクロ時代
―起業される前に働いていたユニクロでの経験は、現在どのように活きていますか?
ユニクロの店舗マネジメント業務を担当していました。ユニクロには、スタッフ全員の意識として店舗をみんなでつくっていく社内の雰囲気があるんです。
朝礼では前日のお客様の声を情報共有したり、目標設定を述べたりと意思統一する環境が整っていました。
接客中もインカムでお客様の入り状況や天候の変化を情報共有していましたし、一丸となって売上や目標に向かってがんばっていました。みんなを巻き込んで取り組む仕事の仕方は、今に活きていると思います。
―ユニクロを退職されてから早稲田大学大学院で経営について学ばれていますよね。そのいきさつを教えていただけますか?
ユニクロの仕事はとてもやりがいがあったのですが、自分のなかで気づいたことがあったんです。「カリスマ店長」と呼ばれる人たちは、お客様やスタッフを惹きつけるタレント性と求心力を持っているんですね。自分に置き換えた時、「自分は“カリスマ”の要素は持っていないな……」と(笑)。
ただ、カリスマ性がなくても“お客様やスタッフに満足してもらう仕組み”を創ることができれば、私も同じようにマネジメントができるのではないかと考えたんです。
そこで、大学院で経営やマネジメントについて学びつつ、自分の方向性を考えるようにしました。今のサービスの開発も、「仕組みをつくってみたい」という当時の想いとつながっています。
言われて気づいた “働くモチベーション” の根幹――『Emotion Tech』の発展
―今までの仕事で苦労したことや大変だったことを教えてください。
2013年3月に株式会社wizpraを設立した時、頭で考えていたサービスが売れなかったことですね(笑)。
現在の会社の理念でもあるのですが“すべての人々がイキイキと働ける世の中を創る”という目標のもと『Pozica』というサービスを開発した時、自分の仮説では、社内の「ほめる」コミュニケーションの活性化が、働く人たちがイキイキと楽しく仕事ができる、満足感につながるのだと思っていました。
ところが、このサービスを売りこみに行った時、複数の経営者から言われたんです。「社内コミュニケーションに重点を置いて社員の満足度を“見える化”するのも重要だと思うけれども、自分たちのサービスに対してお客様がどれだけ満足しているのか“見える化”できる情報がほしい。このツールではできないのか」と。
そこで気づいたんです。ユニクロ時代に自分自身も体験しているんですが、店舗スタッフの仕事のやりがいって“お客様から名指しでお褒めの言葉をいただく”のが一番嬉しいんですよね。お客様に満足してもらってお礼を言われたり、リピーターになってもらえたりすることが、企業の一員として“働くモチベーション”につながるのだと。
―ユニクロの実体験と共通していたのですね。
そうなんです。私が最初に立てた仮説と、社員の満足度を高めたいと考えている経営者が求めていたものと異なっていたんです。だから、すぐにサービスを改良しました。
クライアントのお客様がどれだけ満足しているのか、またどの部分を改善させればよりお客様に満足していただけるのかを、データで“見える化”するようにしました。
―改良したサービスは、どのように現場で活用されたのですか?
たとえば飲食店の場合、お客様が頻繁に来店する本当の要因は何か、スタッフの接客に満足しているのか、料理に満足しているのか……などを分析することによって、業務を見直すポイントを把握できるようになります。
―サービスを『Pozica』から『Emotion Tech』に発展させたいきさつを教えてください。
『Emotion Tech』は、先ほどお話したように、顧客の声を正確に定量的に把握できる指標『NPS』を導入しています。あるベンチャー企業向けの講演会に参加した時にこの『NPS』の存在を偶然知り、顧客満足度の向上に活かせると感じて現在のサービスへと発展させました。
今の時代、周りとのコミュニケーションを取るのを難しく感じている方や精神的に疲れてしまう方が多いと言われています。イキイキと働く人を増やしていくためにも、『Emotion Tech』を職場環境や仕事意欲の向上に役立ててもらえたらと思っています。
人の心を動かすには、どうしたらいいのか――学生時代に身についた思考回路
―学生時代は、どのようなことに注力していましたか?
大学時代はストリートダンスをやっていました。先輩を見て「これしかない!」と思って始めたんです。ダンスって集団で同じ動きをするんですね。それなのに自然と目がいく人といかない人がいる。同じことをやっていても自己表現が上手な人には、自然と目が追ってしまうんですよね。
だからダンスも観客の注目を集めるためにどうしたらいいのか、自分自身でいろいろと工夫しました。これって仕事と同じで、たとえば営業の仕事で同じものを売っていたとしても、表現の仕方でお客様の評価が変わりますし売り上げも変わるんですよね。
「観客の心をどう動かせば、自分に目を向けてくれるのか」……今の仕事と根底は一緒です。
―学生時代、アルバイトはされていましたか?
はい、スーパーのレジ打ちのアルバイトをしていました。選んだ理由は家の近くで時給がよかったからなんですが、やってみて気づくことがたくさんありましたね。たとえばレジには“並ばれるレジ”と“並ばれないレジ”があるんです。
地域密着型のスーパーだったので、お客様が子連れだったり年配の方だったりします。だから、お客様の年齢や状況によって接客の仕方を変える丁寧なスタッフには、ファンともいえる“常連さん”が付いていて、毎回そのレジに並ぶんです。
いっぽうで、機械的に対応するスタッフには並んでいる人が少ない(笑)。お客様が満足してくれるには、どのように自分が行動したらいいのか、とても考えさせられました。
―お客様の心をどう動かすか……ですね。
そうです。ストリートダンス同様、レジのアルバイトも「相手がどう思うか」を考える環境にいたんです。それを考えていろいろと試しているうちに、常連さんが並んでくれるレジ担当になりました。
―その後、就職活動はされましたか?
はい。社会的に影響力のある仕事がしたいと思って、グローバル展開している日立製作所に入社しました。
大学の専攻は理系で情報システム工学科に在籍していたので、仲間はエンジニアなど技術職や研究職に就く人も多かったんですが、私は理系の仕事に就くつもりはなかったんですね。
―それはなぜですか?
4年間理系の勉強をしていて、実はPCと向き合うのに馴染めなかったんです(笑)。それを実感していたので、人と向き合う仕事がしたいなと。
日立製作所は、お客様のことをすごく考えて製品をつくっている会社なんです。そういう会社に新卒で入って学んだことは、転職したファーストリテイリングでも活きていましたし、起業後も「お客様のことを考えてサービスを考える」という自分の想いと共通していると解釈しています。
目指すは、世界中の人が “イキイキと働ける社会”
―今西さんの今後のビジョンを教えてください。
これからも理念として掲げている“すべての人々がイキイキと働ける世の中を創る”という想いを実現していきたいと思っています。日本だけではなくて、世界中の働く人たちが弊社のサービスを使うことによって、今以上にイキイキと働くような社会を築けたらと。
もともと「人の心がどのように動くのか」に興味があるので、その動きが幸福感につながるようなサービスを展開していきたいですね。
―これから社会に出る学生の皆さんに向けて、コメントをお願いします。
自分のキャリアを考えるうえで、「自分が夢中になれること・興味があること」を自分自身と対話して見つけてほしいと思います。
就職活動の時には必ず自己分析を行うものですが、社会の一員として仕事をするようになってから“自分”が見えることも多いんです。自己分析は就職活動期だけではなくて常に行うものなんですよね。私は今も定期的に自己分析をして、自分と対話しながら仕事をしています。
皆さんにも、ちゃんと自分自身と対話して、本当に夢中になれることを探り当ててほしい。それが見つかれば、自分のキャリアを築くことができますし、仕事も一生懸命に頑張れます。
自分の心がプラスに動いて、働くことや人生が楽しくなるんです。皆さんにもそういうイキイキとした人生を歩んでほしいですね!
[取材・執筆・構成] yukiko(ユキコ/色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」代表)
[撮影(インタビュー写真)・編集] 真田明日美