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買い物難民を救え!移動スーパー「とくし丸」販売員が持つ“篤志”の心

株式会社とくし丸 住友達也
住友 達也(すみとも たつや)
株式会社とくし丸 代表取締役社長

1957年、徳島県生まれ。国立阿南高専機械工学科卒。22歳の時、ロサンゼルスに滞在中一念発起し、帰国後、雑誌編集室を立ち上げる。1981年3月、タウン情報誌『あわわ』創刊。1984年4月27日、株式会社あわわ設立、代表取締役に就任。2003年6月に退任し、しばらくはプランナーとして活動するも、両親の話から「買い物困難者」の現状を知って2012年1月11日 社会貢献型移動式スーパー株式会社とくし丸を創業。2016年6月、オイシックス株式会社の連結子会社となり、両社の知見を活かして商品・宅配・流通の質のさらなる向上を目指している。
2017年7月現在で移動トラックは230台、販売パートナーは200名弱、展開都道府県は38都道府県にまで拡大した。

株式会社 とくし丸
創業(株式化)/2012年1月11日
本社所在地/〒770-0865 徳島県徳島市南末広町2-95 あわわビル3F
最寄り駅/阿波富田駅

※本文内の対象者の役職はすべて取材当時のものとなります。

“究極のセレクトショップ” が、今日も街を走る

とくし丸のトラック

♪とくとくとーく とくし丸
♪野菜にお肉 お味噌に 雑貨
♪笑顔もいかが~?
♪移動スーパー とくし丸

軽快な音楽を響かせながら、細い路地に入りこむ小型トラック。

今日もたくさんの品物を載せて、必要とされている人のもとへと走っている。

社会貢献型移動スーパー とくし丸。
「第一回日本サービス大賞」で農林水産大臣賞を受賞し、今もっとも注目されている事業のひとつだ。

音楽を聞きつけ、「待ってました」とばかりに、近所に住むおばあちゃん、おじいちゃんたちがゾクゾクととやってくる。

トラックの荷台の扉が開け放たれると、棚にたっぷりと詰め込まれた生鮮食品と日用品の数々が現れる。

今日はこれをいただこうかな。
ああこれ、これが食べたかったのよ。
いつもうちまで来てくれて、助かるわぁ。

商品棚を前に、ウキウキとお買い物を楽しむ、おばあちゃん、おかあさん、子どもたち。

彼らを笑顔で見守り、声をかけ、ハンディで品物をスキャンするのは「とくし丸」の販売員(販売パートナー)だ。

今日は脂ののった、旬のお魚が入ったよ。
○○さん、この間も同じもの買ったんじゃない? あまり買いすぎちゃもったいないよ。
もしここにないもので欲しいものがあったら、遠慮なく言ってね。今度持って来るから。

販売パートナーはいつでも、やってくるお客さんの気持ちとニーズを第一に考え、その日に入荷した新鮮な食品や、コレというものを毎朝ピックアップする。

商品を売るだけでなく、時に “御用聞き” をし、時にお客さんの健康状態をチェックするのも、販売パートナーの大切な役目だ。

こうして「とくし丸」は高齢者の
“お買い物サポーター”
“見守り隊”
として、地域に溶け込みつつある。

高齢化と過疎化によって “買い物難民” となった人々は、全国で700万人(2015年 経産省調べ)になるという。

ネットでお買い物ができる時代。とはいえ、使いこなせる高齢者はほとんどいない。
弁当や宅配という便利なサービス。それも、使い続ければ飽きてくる。
家族に買い物を頼めなくもない。けれど、忙しいと聞くと気が引けてしまう。

できるなら、自分で欲しいものを見て、選んで、買いたい。
出来合いじゃない、生鮮食品が食べたい。
人と会って、思いきりお買い物を楽しみたい。――

ささやかな、小さな小さな願い。
でもそれは、人の大切な大切な、根源的な欲求だ。

そう考えた株式会社とくし丸の代表、住友達也社長は、母親もまた買い物難民になったことがきっかけで、移動スーパー「とくし丸」を開業した。

高齢者の心の中に眠っていた、お買い物欲求を昇華させるために。
そして、新しいインフラとして、地域を活性化させるために。

“楽じゃないうえに儲からない。”
そう言われてきた移動スーパービジネスを、住友社長は「+10円ルール」という画期的な仕組みで見事、成功させた。


住友「 “おばあちゃんのコンシェルジュ” として、コンビニよりもコンビニエンスな、究極のセレクトショップを目指していきたいと思っています。」


そう語る住友社長に、とくし丸と地域への想い、「販売パートナー」との関係をたずねてみた。

販売パートナーの働き方に見える、とくし丸の理念と信念

移動スーパーとくし丸イラスト

●満足感のある仕事

2017年4月、ある一冊の本が刊行された。

『ねてもさめてもとくし丸 移動スーパーここにあり』

これはとくし丸の販売パートナーである、水口美穂さんのブログを書籍化したものだ。

とくし丸との運命的な出会いを果たしてより今日まで、地域の人たちとの交流を重ねながら奮闘する様子を、ありありと、イキイキと書き連ねている。
特に、文章の最後にはいつも、お客様への感謝がつづられているのが印象的だ。

人のために仕事をする喜び。人とつながることの幸せ。
思わずクスッと笑ってしまうものから、ホロリと泣けてしまうものまで――心温まるエピソードの数々には、心の底から「とくし丸が好き」という愛にあふれている。

本の中で、住友社長は水口さんについて、次のように語っている。


“小柄で華奢そうな外見だったけど、明るく元気そうなオーラは、その時からちゃんと伝わってきていた。(中略)どうせ大変な仕事をやるなら、いや、大変な仕事だからこそ、自分に適した、やりがいのある仕事をやった方がいいに決まっている。そういう意味では、水口さんには、このとくし丸販売パートナーという仕事が、まさにピッタリ合致したのではないだろうか。”


販売パートナーの一日は、朝の積み込み作業から始まる。

提携先のスーパーからその日に入荷した新鮮な食品を中心に、約400品目、1200点ほどの商品をピッキングし、棚に積んでゆく。
そうしてあらかじめ決められたコースを回り、1軒1軒、家を訪ねてまわっていくのだ。

1日の販売額は平均で約7~9万円、ガソリン代や車両保険代などを差し引いて、収入は手取り月24~30万円程度となる。日販で10万円以上売り上げる販売者もいるそうだ。


住友「日々工夫をしながら、一人ひとりの好みを把握し、注文された分を手渡ししていくんです。頭も体もフル回転。特に朝のピッキングと積み込みが、もう本当に疲れるってみんな言います。

けれど、それは “心地いい疲れ” なんだと。本当に、売りに行くのが楽しいと。お金を頂戴しながら一緒に『ありがとう』という言葉までいただけるのがウレシイ、と、みんな楽しくやっているんです。

人間関係の、イヤ~な部分がこの仕事ではほとんどない。そういう意味で、満足感のある仕事だと思います。」


●売りすぎない、捨てさせない

200台まで増えたとはいえ、とくし丸の運用はまだまだ限定的だ。

しかし全国津々浦々、地域のすみずみまで行き渡るように、今後も事業を拡大していく見込みだという。いずれはどこの地域でも、毎日のようにとくし丸の姿を見るようになるかもしれない。

しかし、いっぽうでとくし丸の営業サイクルは、週2日。
3日に1回のペースを堅持している。

その理由としては、お客さんにとっては

「頻繁に来られてもわずらわしいが、かといって週1じゃ不安だから」

ということだそうだ。納得である。

とはいえ、お買い物がしたい、あるいは話し相手が欲しくて、できるだけ頻繁に来てほしい人もいるだろう。

販売側としても、毎度買いこんでくれるお得意様がいれば利益も出せる。お客様に求められ、売上げが上がるなら、それに越したことはないのではないか。

その疑問に対し、住友社長は「利益ももちろん大切だけど」と首を横に振る。


住友「決して “売りすぎない” “捨てさせない” ようにしています。これは、僕らが失敗して現場で学んだことなんです。

昔、あるおばあちゃんが『家族5人で食べるから』と、毎回1万円分くらい買い物してくれるんですが、いつも決まった果物を必ず買うんです。ご家族みんなが好きなんだなあ……って思っていたら、後日、その娘さんからお話があったんです。『冷蔵庫を開けたら、20袋くらい、同じ果物が出てきて驚いた』と。

お話によると、おばあちゃんはその果物に、格別の想いがあるようなんです。だとしてもこんなに買ってこられても食べ切れないし、結局捨てることになってしまってもったいない。でも買い物をする時の母は楽しそうだし、うちの家族の家計もすごく助かっているから、買い物そのものは続けてほしい。けれども、また同じものばかり買おうとしたら、販売側も注意してほしい……と言われまして。

その時に、『ただ、売れればいいわけじゃないんだ』ということに気づかされたんです。それからは、“売りすぎ” にとても注意するようになりました。

たとえば、3日前にお豆腐2丁を買ったのに、また買おうとしている人がいたら『3日前にお豆腐、買ってましたよね、まだ残ってないですか?』ってお声がけするんですね。『ああそういえば残ってたわ』となれば『じゃあ、今日は買うのやめとこうか』って、こちらから売り止めをするんです。

これってスーパーじゃ、まずありえないことですよね。でもスーパーさんもこのことを話すと、すごくよく納得してくださるし『そういう視点は必要だね』と分かっていただけます。対面で売るからこそ、できることですよね。

熱心な販売パートナーさんのなかには、新しい商品とかも自分で試してみて、本当に “いいもの” だと思ったら、それをおすすめするんですよ。

我々は販売パートナーさんに “自分の母親に薦められるものかどうか” という考え方で、お客さんに接してほしいと伝えています。『売ってやろう』じゃなく『これ、僕も食べてみたけどおいしかったから食べてごらんよ』っていうノリですね。
プロモーションとして、こういう対応はすごく効果的なんですよ。」


買った生鮮食品は、できるだけ食べ切ってもらう。
そうすることで、無理な買い物をせずに済み、また販売側もお客さんの体調や食べるペースに合ったものだけをセレクトできるようになる。
無駄がなくなれば、仕入れロスも減る。
……3日に1回という営業頻度は、買う側も販売側も、とてもベストなサイクルというわけだ。

利益が上がる、イコールすべてが幸せなコト、ではないのである。

真面目で誠実、明朗快活! とくし丸の販売パートナーに必要なモノ

●自分の母親のもとへ、行かせられる人物かどうか

「販売パートナー」とは、株式会社とくし丸から販売事業を請け負う、いわば個人事業主だ(※契約は、それぞれの地域スーパーと締結)。

初期費用はトラック代のみ。開業資金を抑えられ、またメディアにも多数取り上げられているためか、問い合わせは増えに増え、現在(2017年7月現在)問い合わせだけで800人を超えているという。

超高齢化社会の進む日本にとって、とくし丸のような移動スーパーは、今後も需要がのびるいっぽうだろう。事業拡大に向け、もっと多くの人材が必要になってくるはずだ。

しかし「おおっぴらに人材を募集するつもりはない」と住友社長はきっぱり言い切った。


住友「一軒一軒、個人のお宅にお邪魔するのですから、本当に信頼できる方にしかお任せできないんです。お客様のなかには独居の方もいらっしゃいます。そういう方と、一対一になっても安心できる人を選んでいるんです。

具体的には、真面目で誠実で、なおかつ明るい方、ですね。お客様にとって3日に1回、暗い人と会うなんてイヤでしょう(笑)。だから、ネガティブ思考だったり儲けを優先したり、横柄な態度を取りがちな方はお断りしていますね。

お願いするかどうかで迷った場合は、最終的に “自分の母親が住む家へ、安心して行かせられる人物かどうか” で判断するよう、地域スーパーの担当者にはアドバイスしています。自分の母親の家に上がらせたくない人をお客様のもとへ行かせるなど、とんでもない話ですから。

そうでなくても、中途半端な覚悟じゃできない仕事です。重労働ですし、なかなか思い切って休めないのが現実です。そういったことも、すべて納得いただいたうえで契約をします。

……と、これだけ厳しく人を選定していますので、問い合わせの半分以上の方はお断りしているのが現状なんです。

でもそのかわり、離職率は5%と低水準を維持しています。辞めてしまう理由はそれぞれですが、自身の病気や家族の事情といった、やむをえない理由が大半ですね。」


毎日、その日に入荷した生鮮食品を積み込み、並べ、一軒一軒民家を回り、対面販売をする。それは考えるだけで大変な手間だ。体調管理も人一倍気をつけなければならないし、もちろん個人事業主として利益を上げるための努力も並々ならない。

しかし、どんなに人を増やしたくても、キビシイキビシイ基準にしているのは、お客様に安心して、心からお買い物を楽しんでほしいからこそだ。

そして実際に、とくし丸の周囲には
「ありがとう」「ほんま助かる」
という笑顔と感謝で、あふれている

人と人との信頼関係を構築できる人。
やりぬく精神力を備えている人。
「とくし丸」の名の通り、“篤志” の心を持ち合わせている人。

そうして選び抜かれた販売パートナーの仕事には、「デジタル」「ノータッチ」「ワンクリック」といった便利なサービスと引き換えに私たちが置いてきぼりにしてきた「アナログ」な「ぬくもり」がある。

手間暇をかけたぶん、人と人とのかけがえのない「絆」ができ、そして確実に「利益」となって、報われている。

これほど血の通った、幸せな仕事は、そうそうないのかもしれない。

これまでの移動スーパーとは違う、とくし丸の事業の仕組み

とくし丸「四者の協力」と「+10円ルール」

●永続的な収益を可能にした「四者の協力」と「+10円ルール」

とくし丸の基本的な事業の仕組みはこうだ。

「販売パートナー」は個人事業主としてスーパーと契約し、契約後は営業に使う「とくし丸」のトラックを購入する必要がある。しかし、トラックに積み込む商品は、提携先の地元スーパーのもの。つまり買い取りではないので、仕入れコストはゼロだ。販売パートナーは売上げの17%と、後述する「+10円ルール」のうち5円分の収入が加算される。

販売パートナーは、トラック代のみで事業を始めることができるうえ、売り上げれば売り上げるほど、利益を得られる仕組みだ。

提携先のスーパーにとっては、新たな設備投資をせず、商品を地域の隅々まで売り込むことができるのが最大のメリットだ。無理に棚を空ける必要がなくなり、「待ち」から「攻め」の売り方が可能になる。さらに、「+10円ルール」の5円分も、スーパーの利益分となる。

返品ロスは受け入れなければならないが、トラックは夕方までに戻ってくるので、返品された分は値引いた価格で店頭で再販することで、廃棄ロスを抑えることができる。

株式会社とくし丸の本部は、仕事が軌道に乗るまで、販売パートナーを全面的にバックアップする。本部としての利益は、地域スーパーからのロイヤリティ(1台につき毎月3万円)のみで、中間マージンは取らない。

定額にしておけば、上がった分の利益はすべて、スーパーと販売パートナーの利益に還元することができる。「地域の売上げは、地域のために使われるべき」という住友社長の信念のあらわれだ。

①とくし丸本部
②販売パートナー(個人事業主)
③提携スーパー

とくし丸の事業は、この三者の無理のない相互関係が屋台骨となっている。

しかし、収益の仕組みでもっとも画期的なのは、前述した「+10円ルール」だ。
この三者プラス “第四の協力者” である “④お客様” に対し「+10円ルール」を設けているのが、とくし丸の最大の特徴になっている。

「+10円ルール」とは、トラックに積んだ1商品につき「プラス10円」で販売するというもの。100円のものは110円、1000円のものは1010円。そうしてお客様に10円負担していただき、その10円のうち5円は提携スーパーに、残り5円は販売パートナーの利益に還元される。

これこそ、収益を上げにくい移動スーパーをビジネスとして永続的に続けていくために住友社長が考え出した、利益循環システムだ。


住友「100円が110円と聞くと一見割高のようですが、スーパーへ行くための移動コストを考えたら、決して高くはないはずです。スーパーの方にも、またお客様にも、その点とても納得をいただいています。これで、プラス20円とかだったらまったく印象が違っていたでしょうね。

こうしてお客様にもビジネスモデルに参加してもらうことで、収益構造が今までの移動スーパーと違って劇的に改善されました。」


●郵便事業、衣料品、メガネの販売――進化を続けるとくし丸

住友社長はメディアにも精力的に出演し、とくし丸の必要性を訴え続ける。

今後、とくし丸そのものは、どのように進化していくのだろうか。


住友「一部ですが、郵便局と提携して切手やはがき販売をしています。 “動く郵便サービス” ですね。また、衣料品、洋服を売る『とくし丸プラス』という車を走らせています。これは月、または隔月で1度の頻度になります。」


特に最近、力を入れ始めているのが、株式会社三城(メガネの三城、パリミキで有名)と始めた移動検眼車――メガネの移動販売だ。


住友「今はまだ四国と福島県のみ。移動検眼車は全国で30台ほどなので、マッチングできるエリアは限られていますが……バンには検眼器だけでなくフレームも200本くらい積んでありまして、その場で検眼してフレームを選び、次の時にできたメガネを持っていくということが可能です。

とくし丸で三城のチラシを配っていまして、それを見て『メガネをつくりたい』『度を直したい』といった要望があれば、三城さんに伝えます。そうして検眼器を載せたバンが、お客様のお家の前まで来るんです。」


近くにお店がなくとも、お店のほうが「来てくれる」となれば嬉しいものだ。
これも、高齢者と直接コンタクトが取れるからこそ生まれたサービスだろう。


住友「せっかく、これだけの高齢者のお客さんのネットワークができているのだから、その消費頻度によって、いろんなものを提供したいと思っているんです。おばあちゃんたちが欲しいもの、高齢者に関する情報を僕らが集めてきて、メーカーに渡す。そういったマーケティングも可能なんです。」


とくし丸のトラックは、家の一軒一軒をまわり、対面販売を行っている。
そのため、試食や試飲のおすすめもしやすく、かつ生の声を集約しやすい。

特に、ネットを自在に使える若者と違ってアクセスしにくい高齢者へ直接つながりを持てるという点は、他の業者の追随を許さない。


住友「買い物難民はある意味、情報難民でもあります。高齢者には僕らが唯一、顔を合わせてお話して情報を伝えるチャンネルになっています。

高齢者のマーケティングリサーチとして、とくし丸は優れていると思います。現在はまだトラックは200台ほどの規模ですけれど、これが1000、2000台となったら何十万人という単位の高齢者に接触できるようになるはずです。」


とくし丸、未来へのバトンタッチ

とくし丸の商品棚

●2016年、オイシックスの子会社に

今後ますます活躍の場を広げていくとくし丸。2016年6月、有機野菜等をネットで販売するオイシックスの傘下に入った。その理由とは。


住友「全国展開していくためです。今まではうちの事務所は僕と社員2人だけでしたが、全国展開していくためにはやっぱり人材も必要ですので。僕自身も『会社、売りますよ』ってあちこちに言ってたんですよ。」


住友社長は徳島県出身。そこでタウン誌「あわわ」を創刊し、会社を設立後、一度も赤字を出さずに徳島No.1のタウン誌に成長させた実績を持っている。

「あわわ」創刊から代表を下りるまでの半生がつづられた単行本『あわわのあはは』には、バイタリティに満ち満ちた住友社長の “あわわ” な一面が随所に見られる。

タウン誌をつくりたくて夢中で走りつづけ、人と人とのご縁に助けられながら「あわわ」とともに成長し、歩んできた人生。時に壁にぶちあたり、時に圧倒的な権力と戦う姿からは、若い世代でも共感する部分は多いだろう。

住友社長は “50歳でリタイア宣言” をしていた。実際には4年前倒しの46歳で株式会社あわわの代表を下りている。株式会社あわわは、「タウン情報かがわ」を刊行していたセーラー広告株式会社に株式を譲渡した。

今回はオイシックスとのM&Aによって、人生初の “雇われ社長” になった。
住友社長は株式会社とくし丸の代表を、2年間という期限で務めることになり、現在でちょうど1年が経過している。


住友「事業の承継ってやっぱりすごく大事で、 “次にどこにバトンタッチするか” のタイミングはいつも考えていました。今回もそうですが、あわわの時も、絶好調の時に売ったんです。そのため、譲渡先の会社は4年後にはジャスダックに上場できて……僕の役目は果たせたかな、と思っています。

次は、このとくし丸ですね。ちゃんとした形で、この急激な企業の成長についていける企業にバトンタッチしないと。今ここで社員を雇って、育てて……っていうんじゃ、もう間に合わないですからね。

M&Aのオファーそのものは大手さんからいただいていましたが、そのなかでもオイシックスは、一番僕を自由にやらせてくれそうだったんです(笑)。結果的にこのM&Aは正しい判断だったと思っています。オイシックスとは食品関係というシナジー(相乗)効果もありますし。」


“次は若い世代に任せたい” と言う住友社長。しかし代表職を2年まっとうしたあとに、また何かをするのでは……? とつい期待をしてしまうのだが。


住友「いやいや、もういいでしょ(笑)。気力と体力は、若いときと比べるとどうしても落ちてしまうものでね。

あわわの時は、本当になんの経験も人脈もノウハウもない中で、23歳で創業しました。周りから見たら大変そうに見えたかもしれません。けれど、若さもありましたし、とにかく夢中でやりたいことをやっていたから、全然苦ではなかったんです。

今回、とくし丸を創業したのが54ですから、一応、経験も資金も人脈も経営のノウハウもあるし、あわわの時から圧倒的に有利な状態でスタートしています。だから、これで失敗したら『なんだ、ただの道楽か』と思われたところでしたよね。

もう僕には若さはありません。それは仕方のないことだと思っています。だから、早い段階で、これはと思ったところ、安心できるところにバトンタッチさせるっていうのが、今の僕の仕事だと思っています。プラス、付加事業としてとくし丸の販売パートナーさんの収入を増やすために、新しいことを考えたいです。

これから競合他社がたくさん出るでしょう。けれども、どんなに早いスピードでも、きちんと収益が出るために1年はかかると思いますよ。現場でしか得られないものもたくさんあるし、他社がそれを利益構築している間にも、僕らは次のステージに向けて動いていますから。

ある程度メドを立てたら、僕自身はフェードアウトしたいなと思っています。その後、何かしたいと思ったら……メインの人をサポートする相談役のようなポジションでしょうか。」


●「会えてよかった」と言われる人になるために

住友社長は著書のなかでもたびたび「もうけは二の次」「自分に恥ずかしくない生き方をしたい」といった、 “忘己利他(もうこりた)” の精神をのぞかせている。


住友「経営者のなかには、金もうけが好きっていう人もいる。それを人生の目的にしている人もいるけど、僕自身はあまりそういう考えがないんですよ。

確かに、よく経営者仲間にも言われるんです、『もっと利益をもらってもいいんじゃないか』って。でも、僕はもうけ過ぎもよくないと感じていて……みんなでやって、やった人がやった分だけ報われるという形にしたい。

我々は、売れる仕組みやノウハウは提供するけれど、それで売上げが出るか出ないかは、現場の人たちの努力次第なのです。

今はオイシックスの子会社になって、人や設備を投資している段階ですが、目先の小さな利益よりも、スピード感を持って台数を増やすことに専念しています。

今までのフランチャイズビジネスは、安い地方の労働力を使って、利益はほとんど都市部に……東京は元気で、地方は疲弊していくという仕組みになっていました。しかし僕の考えたとくし丸の仕組みは、地域単位でがんばればがんばるほど、お金がめぐっていきます。地域のスーパーと組むことによって、地域の中で循環するんです。そういう仕組みは維持していきたいと思っています。」


もうけ過ぎない、売りすぎない。常に、地域の利になるために働く。
住友社長の、この想いの原動力になっているものは何だろうか。


住友「僕と関わる人、みんなに嫌われたくないっていう思いがあるからかな(笑)。できたら、会う人みんなに『あなたに会えてよかった』って言ってほしいんです。付き合った女の子に振られたとしても『こいつと付き合うんじゃなかった!』って言われたくないのと一緒で。

やっぱり何事もお互い様ですし、気持ちよく仕事がしたい。人間関係って、そういうものだと思うんですよ。」


本当にやりたいことを貫いてほしい――住友社長の若い世代への想い

●期待したいのは、既成概念を打ちやぶることのできる力

裸一貫からタウン誌をつくり、会社を立ちあげ、一度も赤字を出さずに業績を伸ばし続けたところで早期リタイア。新たに始めた事業も順調だ。

そんな住友社長に憧れ、感化された若者も多いだろう。実際、住友社長のもとには経営者を目指す若者がアドバイスを求めにやってくるという

住友社長の、若い世代への想いを聞いてみた。


住友「経営者として活躍できる人、というなら、 “世間を見返してやりたい” と思えるくらいの気概のある人が活躍してほしいですね。そういう人たちが、新しいものをつくるんだと思うんです。

新しいものを作るというのは、前の世代を否定するということ。我々のような年寄りが言うことに『何言ってやがる』って言えるヤツが、今までの概念を壊して、新しい事業をつくり出せると思うんです。

間違っていてもいいから、そういうことをやれる人が出てきてくれればおもしろいな、って思います

この前も、起業家・経営者の情報交換会というのを、大学生を交えてやったんですね。東大生が持ってきた新しいビジネスの構想とかを見るんだけど……それがもう、僕から見たら、ちゃんちゃらおかしい(笑)。やれるもんならやってみろってカンジで。

……でもひょっとしたら、それは僕では発想できなかったことかもしれないし、『そんなことをビジネスにしようと思うんだ』っていう新鮮さはあって。だから、そういう学生に、ぜひ僕を見返してほしいと思う。もちろん、僕のほうもダメ出ししまくるけどね(笑)。

いっぱい失敗するなかで、きっと工夫も生まれる。多くのビジネスは、あらゆる局面に対する対策をシュミレーションして、考えうることすべて考えたうえで対策を考えておくということ。ただ考えられることを考えていても、それを超える想定外のことが起こるのが現場なんです。それを乗り越えることができるかどうか、ですね。」


住友社長もこれまで幾度となく試練を乗り越えてきた。詳しいことは著書『あわわのあはは』に掲載されているが、当の本人としては「そこまで、たいしたことはなかった」のだという。

常に前向きでいられる、そのポジティブ思考の持ち方とは。


住友「たとえば『10キロ先に好きな子がいる』としたら、その10キロ歩くのも平気でしょ。何の目的もなく『10キロ歩け』って言われたらイヤでしょ。……それと同じで、どんな目的を持つかで、負担が全然違うワケです。

だから “本当にこれを事業化したい” とか “これを世間に認めさせたい” っていう思いがあれば、この10キロ歩くのは全然本人にとっちゃ苦じゃないものだよね。」


目的や目標が明確だと、周囲から「苦」に見えることも「楽」に見えてくる。
何を目標に持つか、が大切なのだ。


住友「そう。でもそれって、そんなにたいしたものではないんですよ。本当にやりたいかどうかって、すごくシンプルなことなんです。

きっと、それぞれ心当たりがあると思いますけれど……好きなことに、あまり理由はないよね。理由づけした瞬間、何か違うものになってしまうから。」


●住友達也社長から若い世代へメッセージ

住友社長がタウン誌『あわわ』を創刊したのは23歳。小学校のころから学級新聞づくりに熱心に取り組み、学生時代は同人誌をつくり、卒業後はふと思い立ってロサンゼルスへ旅立って1年間滞在。現地で(ここでも)思い立って雑誌づくりを腹に決め、日本に帰国し、情熱のまま「あわわ」を創刊した。

人生を熱い心のまま駆け抜けてきた住友社長から、今の若い世代へ贈りたいメッセージをうかがった。


住友「社会の制度や常識に惑わされずに、本当に自分が何をやりたいか、本当にしたいことをするのが一番大事だと思います。

世間体とか、世間の評価を気にして自分の行動を変えるのではなく、自分の本能的なところ、欲望に、素直にね……いい意味でね、仕事としてね……やったほうが、結果的にいい仕事ができると思います。

我慢したりとか、努力したりすることも時には必要でしょうけれども、何か……生活するだけのための仕事って、ちょっとつらい。だから、辞めちゃうやつがいっぱい出てくるんだと思う。

本当にやりたいことが最終目標にあるなら、それは我慢にもならないはずです。

“努力する” という意識ではなく、 “やりたい!” って本気で思えること。
楽しんで、サッと乗り越えられるだけのことをやってほしいな、と思っています。」


<株式会社とくし丸>
〒770-0865 徳島県徳島市南末広町2-95 あわわビル3F
阿波室戸シーサイドライン 阿波富田駅より車で約7分

<オイシックスドット大地株式会社>
〒141-0022 東京都品川区東五反田1丁目13番12号 いちご五反田ビル
JR五反田駅より徒歩すぐ

[取材執筆・構成・インタビュー写真撮影]
真田明日美
『Career Groove』編集長兼ライター。真田幸村の直系ながら徳川家大好きの藤堂高虎ファン。歴史系雑誌書籍の編集者を経て現職。
※面識のない方からのFacebook友人申請はお断りしております。ご了承ください。

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