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訪れたチャンス 気づく心、掴む準備
―いつでもチャレンジできる準備をしておこう―

サイジニア株式会社 吉井伸一郎
吉井伸一郎(よしい  しんいちろう)
サイジニア株式会社 代表取締役社長

文部科学省および日本学術振興会特別研究員。ソフトバンクコマース株式会社(現・ソフトバンクモバイル株式会社)情報システム本部研究開発センター長などを経て、2004年から北海道大学大学院情報科学研究科複雑系工学講座の助教授を務める。複雑ネットワーク理論や機械学習を活用したビッグデータ解析技術は、日米で複数の特許を取得。2007年にサイジニア株式会社を立ち上げ、パーソナライズ・エンジン「デクワス」を利用したマーケティング支援サービスを展開する。

パーソナライズ情報で、幸せを先取りできるサービスを

サイジニア吉井伸一郎社長

―サイジニアの事業内容について教えてください。

  我々は、「デクワス」というパーソナライズ(個々に最適化されたサービスを提供する手法)・エンジンを提供しています。今は、街のなかには商品があふれ、ネット上にもたくさんの情報が飛び交う時代です。しかし、本当に自分が欲しいモノや情報は見つけにくくなっているのではないかと感じています。検索エンジンを利用すれば何だって探せると思いがちですが、検索エンジンを使う時は自分でキーワードを選択し、入力しなければならない。つまり、自分が知っている情報からしか探せないわけです。

  そこで、我々はその検索エンジンに代わるものとして、情報に“出くわす”機会をつくりたいと思いました。そんな想いから生まれたサービスが「デクワス」です。「デクワス」はユーザーの行動履歴をプログラムが学習することで、次の行動を予測し情報をパーソナライズしてご提案するサービスです。

  その「デクワス」というエンジンを利用し、2つの事業を展開しています。ひとつ目は「パーソナライズ・レコメンドサービス」。これはECサイトでの商品閲覧時に、おすすめ商品を表示させるものです。それを展開させたサービスが2つ目の「パーソナライズ・アドサービス」という、個人個人の嗜好性を分析して広告として商品を表示させるシステム。バナー広告を表示させてサイトに誘導するという集客支援のサービスです。さらに、おすすめのアイテムを明細書に印刷して商品の箱に同梱するサービスも展開しています。これは非常に効果が高く、おすすめを見たユーザーの約40~50%が30日以内に商品購入に至ったという実績があります。

  このように、ユーザーさんが将来欲しがるようなものを先読みしてご提示し、もっと自分の好きなもの、欲しいものをパーソナライズすることで、幸せの先取りをお手伝いしたいと思っています。

―裏側のプログラムはすごく複雑なものなんでしょうね。

  まさに、その裏側が僕らの“コア”ですね。我々のエンジンは「複雑ネットワーク理論」というものを使っているのが特徴なのですが、これは大学時代から僕が研究していたテーマでもあります。世の中のあらゆる事象をネットワークとして解析する新しいサイエンスなんです。

  ネットワークというのは、インターネットに限った話ではなく、人間関係や企業間取引、電力網、交通網、生態系など、いろいろな事象に存在しています。それぞれのネットワークは全く別のもののように思えますが、つながり方に注目して数学的に読み解くと、共通する特徴が眠っているんです。それを知った時、「デジタルの世界」だと捉えられがちなインターネットも、実は自然科学の延長線上にある森羅万象のひとつと考えることができる。そうすれば、よりよい解析が実現可能なのではないかと思ったんです。

  これまでのレコメンドエンジンは、あらかじめ人間がモデル化しプログラミング上で動いていますが、「デクワス」には、自己組織化や進化する過程といった生物学的なプロセスに着想を得た考え方が盛り込まれています。

サイジニアのコアとなる研究に明け暮れた大学時代

大学時代につい語る吉井伸一郎さん

―そういった研究を大学時代から続けられていますが、その分野に興味を持たれたきっかけは?

  もともとは自己組織化現象というものに興味がありました。かなり専門的な話になってしまいますが(笑)、当時は、物理現象と生物学の境界線を探るような研究をしていたんです。生物は遺伝子の組み合わせを変化させたり、細胞が自己複製されたりしながら進化しているわけですが、生物にそういった特徴があるのであれば、人工物、すなわちコンピュータ上でも生物らしさみたいなものを実現できると。

  それを遺伝的アルゴリズムというのですが、コンピュータプログラム自体を生物の遺伝子に見立てては互いに競い合わせ進化させるんです。プログラムをたくさん並べて、一番成績のいいプログラム同士を交配させ、新たなプログラムをつくっていく……というような研究を行っていました。

―大学生活は研究一色という感じだったのでしょうか?

  そうですね。学生時代は家庭教師のアルバイトをしていましたが、研究メインの生活でした。文部科学省の研究員としての研究をはじめ、経済産業省の研究プロジェクトや、特許庁でも研究も行っていました。

  研究テーマもたくさん手がけていて、ひとつは先ほどお話した自然科学的にインターネットを捉えるというアプローチ、2つ目は大量のデータからモデルを再構成すること。これは今でいうビッグデータですね。3つ目として、プログラム同士をインターネット上で連携して動作させるという、クラウドの基盤となるような研究をしていました。

  研究をしていると、国内学会に出て論文を発表し、さらに成果が出ると国際学会に行くわけですが、学会に出るたびに「上には上がいる」ということを思い知らされましたね。理学博士と医学博士を両方持っている人がいたり、外国人なのに、僕よりも日本のことに精通していたり。どんなに研究を一生懸命していても、世界にはまだまだすごい人がたくさんいるということを感じました。

研究室ではできない研究成果を求めて企業に就職

サイジニア起業の経緯

―そのまま研究者の道を選択せずに、就職されたのはなぜですか?

  僕が取り組んでいた研究は、研究室で行うには限界がありました。実際にユーザーの行動履歴などの本物のデータを使ってみないと、これまで研究してきたことの正しさがわからないからです。グーグルやアマゾンは、彼らのサービス自体がエコシステム(生態系のように循環しながら効率的に収益を上げる構造)になっているので、今日つくったコードも明日には善し悪しの判断ができるような状況下で技術を高めている。そういった環境で日々技術を磨いていかなければ、この研究の正しさは証明できないと思いました。

  その時から、起業してみたいという想いはあったのですが、当時のソフトバンクコマースの社長さんから「うちで研究をやりながらサービスを考えてみないか」とお声掛けをいただき、チャレンジしてみようと思いました。その時のソフトバンクコマースはソフトウエアの流通と出版をメイン事業としていましたが、さらにインターネット上のサービス事業を展開していきたい、というタイミングだったんです。

  でも、入ってみたら、研究内容とは全く違うADSLの通信技術の仕事を担当することになって(笑)。当時は社内のほとんどが営業職で、研究者がいなかったんですよね。それで「吉井くん、博士号持ってるからできるよね?」という感じで(笑)、任せていただくことになりました。自分がやってきた研究とは違うものでしたが、どれもエキサイティングで満足できる仕事でした。

―そこから、北海道大学に助教授として戻られます。それにはどのような経緯が?

  ソフトバンク時代も、ときどきネット上で論文を読んだり、本を読んだりしていたのですが、理論物理学者であるアルバート=ラズロ・バラバシが書いた本を読んだ時に、自分が探していた理論は「これだ!」と直感したんです。

  僕が研究していたテーマは3つあったとお話しましたが、それらをつなげる理論が当時はわからなかったんです。その本には、まさに3つの研究をつなげるための考え方が書かれていました。それを読んで、もう一度研究がしたいと思い、戻ることになりました。

研究成果を世に広めたい……シリコンバレーに賭けた想い

シリコンバレーについて語る吉井さん

―ソフトバンクに入社する時にはすでに起業をしたいという想いがあったとおっしゃいましたが、なぜ起業をしたいと思ったのでしょうか?

  今でこそ、インターネットは身近なものですけれども、僕が学生のころは画像とテキストを見るためのアプリケーションが別々だったんですよ。そんな時代でも、検索エンジンというものはいくつも存在していました。でも、どれも検索結果の精度はすごく低かった。そんななか、「Google」というシンプルな検索エンジンが出てきて、あっという間に今のような状況になってしまったわけですよね。

  「すごいな」と思って調べてみたら、創業者はセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジというスタンフォードの学生であると。しかも、彼らは論文をひとつしか書いていないんです。日本の大学のアウトプットというと、どうしても論文の数が成果になってしまう。でも、彼らの世界はそうではなくて、どれだけの人が使ってくれたかが評価の軸になっている。そういうふうにやっていかないと、本当の進化は見えないと思いました。

  自分の研究を続けるためにも、論文を書いていくのではなく、サービスを提供する側になっていかなければいけないんだと思ったのが、起業をしようと思った理由です。

―起業後に苦労されたことはどんなことですか?

  研究仲間と教え子数名と一緒に立ち上げたのですが、始めてみたら、みるみるお金が減っていきました。何かの収益基盤があって始めたわけではないので、考えてみれば当たり前のことなのですが、そういうことすら整備できていない状態でスタートしたんです。最初の社員が入社する時には「あと3ヶ月以内に投資が受けられなかったら、会社が潰れてしまうけれども、いいですか?」と確認して入社してもらったくらいですから(笑)。

  そんな状況なので、すぐにでもお金を調達しなければならないと思い、VC(ベンチャーキャピタル、投資会社)の方に会いに行きました。当時の日本のVCはまずは売上げがしっかりとあるかどうかに焦点が当たってしまう状況だったので、なかなか投資を検討していただけませんでした。そこで、「ITといえば、シリコンバレーだ」と思い立って、思い切ってシリコンバレーに行ったんです。

  それが2008年の話で、今みたいにスタートアップが盛んではない時代でしたので、「日本から来た」と言うと、結構おもしろがってくれたんですよ。彼らははっきりした意見を持っているので、興味があるか、ないかをすぐに言ってくれる。興味があると言ってくれた人には、共同出資をしてくれそうな人を紹介してもらい、ないと言った人には興味がありそうな人を紹介してもらう。シリコンバレーでは共同出資という形もよくあるので、横のつながりもあるんですよね。なので、必ず誰か別の人を紹介してもらいました。

  会った人から次の行き先をゲットするということをくり返し、空いた時間があった時には飛び込み営業で話を聞いてもらいました。その結果、無事に出資をしてもらうことができ、当時、月の売上げが十数万円しかなかった時に、4億円以上の投資をしてもらえたんです。実は、その1週間後にリーマン・ショックが起きたので、もしも契約締結が1週間ずれていたら、北海道に帰っていたかもしれませんね(笑)。

“サイニジア”がひとつの職業として認めてもらえるように

サイジニア社内と吉井伸一郎社長

―吉井さんは研究者と起業家を両方ご経験されていますが、それぞれのおもしろさはどんな点にありますか?

  それぞれのおもしろさというよりは、両方経験することでのおもしろさがあるのかなと思っています。「サイジニア」という社名も「サイエンス」と「エンジニアリング」を合わせてつくった造語ですが、サイエンスは過去の人たちの知識のうえに、新しい知見を積み重ねていく取り組みで、エンジニアリングは刻々と変わる課題を解決する取り組み。これを両方一緒にやっていくことが我々の醍醐味だと思うんです。

  一説には21世紀に存在する職業のうちの90%は19世紀、20世紀にはなかったと言われています。だから、「サイニジア」という職業が新たに加わるかもしれない。それが実現したら、僕らの取り組みがうまくいった証になるのかなと思っています。

―吉井さんはどんなポリシーを持って、お仕事をされていますか?

  ポリシーとして掲げているようなことは特別ないですが、先入観で物事を決めつけないようにしようとは思っています。一般的には研究者になったら、その後は大学教授を目指すというコースが考えられると思うのですが、おもしろそうな取り組みができそうなチャンスがあれば、「これは違う」と排除せずに、その話が自分のもとにきた「おもしろさ」を考えて、取り組んでみる。そうやってきたことが、今につながっていると思います。

  サイジニアで取り組んでいることにも教科書がありません。だから、一緒に働くメンバーも、未知なることに取り組む楽しさを共有できるような仲間であると感じますし、そういった人たちがこれからも集まってきてくれるといいなと思っています。

―最後に、仕事に対して悩んでいる学生にメッセージをお願いします。

  「Chance favors the prepared mind」。これは、有名な細菌学者であるルイ・パスツールの言葉で「チャンスは準備されたところに訪れる」という意味です。普段、目の前でやっていることは、ありきたりな仕事かもしれないけれど、ある時、「これだ!」と思えるひらめきやチャンスに出くわすかもしれません。でも、それは、オープンマインドでいないと気付かない。

  研究者だった僕にも、ひたすら目の前のプログラミングをやっているところに「うちの会社で働いてみないか」というチャンスがきましたが、そういった時に「やってみよう」って思える心があるかどうかはすごく大事だと思うんです。日々、過ごしているなかで、そういったきっかけは自分にやってきているはずなので、それを見逃さずに、どんどんチャレンジしていってほしいと思います。

<サイジニア株式会社>
〒105-0013 東京都港区浜松町1-22-5 浜松町センタービル7F
都営大江戸線 大門駅より徒歩2分

[取材・執筆・構成]渡辺千恵 [撮影]真田明日美

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