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世界王者から市議会議員への転身!
―元ボクサーが新たに挑戦した場所で目指すものとは―

東京都稲城市 市議会議員 坂田健史
坂田健史(さかた たけふみ)
東京都稲城市市議会議員

1980年生まれ。元プロボクサー。1998年にプロデビューを果たし、2007年、第69代WBA世界フライ級王者の座を獲得した。2011年1月にプロボクサーを引退後は専修大学商学部二部に入学。2011年4月、東京都稲城市市議会議員選挙に初出馬、初当選を果たし、現在に至る。

理想とのギャップを越えて向き合った夢への想い

坂田健史-座り

―まずは、ボクシングを始められた経緯について教えてください。

  もともと父親がボクシング好きで、テレビで試合をよく見ていて、幼心に「ボクサーってかっこいいな」と思っていたんです。その後、映画の『ロッキー』やマイク・タイソンの試合を見ているうちに、ますます憧れが強くなって自分もボクシングを始めたいと思うようになりました。僕は広島の出身なんですけど、高校からボクシングをやろうと決めて、地元でボクシング部がある高校を探して入学しました。

―実際にボクシングを始められて、すぐに結果は出たんでしょうか?

  それがですね…大きな夢を抱いて始めたんですけど、その当時はボクシングのかっこいい部分しかイメージできていなくて、陰の地味な練習やその辛さっていうのをまったく考えていなかったんですね。練習を始めてみたら毎日とにかく地味で、ただしんどいだけのトレーニングをひたすらくり返すわけですよ。それで、だんだん気持ちが離れていってしまって…。高校生ですから、周りの友だちは自由に遊んでいるんですよね。それがうらやましくて「こんなことしてる場合じゃないな」って思って、入部してすぐに辞めちゃったんです。それから1年間くらいは友だちと遊びながら、短期のアルバイトで工事現場の手伝いをしたり、ビアガーデンでビールサーバーを背負ったりしていました。

―そこから、またボクシングを再開されるまではどんな心境の変化が?

  なんて言ったらいいんでしょうかね…? 自由にはなったんですけど、なんだか虚しくなってきてしまったんですよ。充実感もまったくなくて。「せっかく憧れていたボクサーへの一歩を踏み出したのに、俺は何やってるんだろう?」って思ってしまって、もう一度、ボクシングにちゃんと取り組まなきゃダメだなという気持ちが出てきたんです。ボクシング部は辞めてしまったので戻れなくて、自分で地元のジムを探して入りました。竹原慎二さん(元WBA世界ミドル級王者・広島県出身)のお父さんが経営されているジムに。そこで高校を卒業するまで練習をさせてもらって、卒業と同時に東京に出てきました。

“逃げない自分”を追求したアルバイト時代

坂田健史-稲城市役所会議室

―上京を決意されたのは、ジムに通ったことでプロになることをより意識したからですか?

  そうですね、ジムに入った時点でプロになることは決めていました。地元の広島からデビューすることも考えたんですけど、ボクシング界の中心は東京なので、そこに身を投じないとチャレンジしたことにならないんじゃないかという思いがありましたね。どうせ挑むなら一番厳しいけれど、一番チャンスがある環境で自分を試したいと。卒業前に一度、高校3年の夏休みにひとりで東京に来たんですよ。10日間くらいだったかな? ボクシングジムを見て回ったんです。大手のジムから気になっているジムを全部、しかもアポなしで(笑)。そのときに(のちに所属することになる)協栄ボクシングジムにも行ったんですよ。チャンピオンを輩出しているジムっていうのは、選手みんながチャンピオンを見て育っていくので、練習方法や試合に勝つまでの雰囲気というものが受け継がれていくんですよね。僕が見学したときはちょうどチャンピオンがいない時期だったんですけど、それでもすごい人数がいて、練習している空気にピリピリとした緊張感があったんです。かなり刺激を受けました。見学を終えて広島に戻って、ジムの会長にいろいろと相談したんですけど、協栄ジムであれば紹介してくれるということだったので、入ろうと決意しました。

―協栄ジムに入ってからは、ボクシング漬けの毎日だったんですよね?

  それ一本というわけにもいかないので、バイトもしていました。上京した直後は水道工事のアルバイトをやってたんですよ。仕事の時間であってもトレーニングになるようなアルバイトを積極的に選びました。ボクシングに対しては「逃げ道を作りたくない」っていう気持ちでいましたね。やるだけやって、とことんまでチャレンジしてダメだったらしょうがないよなとは思っていましたけど、ラクなほうに逃げるのだけはやめようと。ただ、バイトにも夢中だったので、それで疲れ果てちゃって練習に集中できないなんてこともありましたけど(笑)。慣れないうちは、両立するためのバランスが難しかったですね。

死を覚悟して挑んだ幼いころからの夢舞台

坂田健史-世界戦

―プロを目指してから引退されるまで、数々の試合を経験されたと思います。どの試合が印象に残っていますか?

  一番印象に残っているのは、初めて世界王座に挑戦した試合ですね。ついに自分が思い描いていた夢の舞台に立つことができて、この試合に勝ったら世界チャンピオンになれるっていう試合だったので。でも、その試合で選手生命が絶たれるかもしれないような大ケガをしたんです。2ラウンドにボコボコに殴られて下顎骨が折れたんですよ。右フックを受けた瞬間、あごが折れたっていうのがわかるくらいの衝撃でした。このまま戦ったら死ぬかもしれないと思ったんですけど、反撃しながら最終ラウンドまで戦うことができて。ある意味では開き直った自分を出せたとも感じています。「もうこの試合で死んでもいい。死ぬ代わりに絶対に世界チャンピオンになってやる! チャンピオンベルトを巻いた瞬間に死んでも悔いはない」と思いながら戦っていましたから。結果的にその試合は判定で負けてしまったんですけど、多くの方々に評価していただけました。あの試合があったからこそ、それ以降の試合を組んでもらえたっていうのもあると思うので。自分にとってのターニングポイントだったと思いますね。

―そのような試合を経験されたあと、リングに上がることに恐怖はなかったですか?

  正直言って、怖いっていう気持ちはなくならなかったですね。ケガをしたからというわけではなくて、現役時代に戦った全44試合、タイトルがかかっていようがいまいが、怖くなかったという試合はないです。もう生きてリングを下りられないかもしれないって、毎回思っていましたから。実際に僕の知っている選手で亡くなった方もいますし、試合中の事故が原因で社会復帰できなくなってしまった方も見てきているので。自分もリングに上がるからにはそういった危険があるわけですから、恐怖心は消えませんでした。それと、試合に負けたらどうしようという別の怖さもあるんですよね。ジムやファンの期待を裏切ってしまったら、すべてを失ってしまうんじゃないかという不安とも闘っていて…。でも、勝負の世界ですから、やはり勝つことが大前提。ネガティブなことが頭をよぎっても、最終的には勝つことだけに集中して、リングに上がるようにしていました。

―亀田大毅選手(第71代WBA世界フライ級王者)との試合後に引退を発表されましたが、あの試合はどんなことが印象に残っていますか?

  引退を決意したのは亀田(大毅)選手に敗れたことがきっかけなんですが、それまでも自分の体がどんどん衰えてきているという自覚はあったんです。世界チャンピオンになって以降、「今回の試合もよかったよ!」と周りの人たちは言ってくれたんですけど、どこか納得できない自分がいました。試合のVTRを見ると「こんなにスピードが落ちてるのか…」って思うわけですよ。でも、それを認めたくなかったんです。認めてしまったらボクサーとして戦っていけないですから。「もっと強くなってやる!」と思うことでごまかすというか…衰えている自分に生まれてしまった弱い気持ちを抑えながら戦っていましたね。それまでは勝つことで辛うじてカバーできていたんですけど、敗戦したときに「もう限界なんだな…」って改めて気づかされてしまったんです。それで潔く辞めようと。13年間プロとしてやってきて、精神的にも自分が思っている以上に疲れていたんだと思います。ずっと緊張感の中にいたので。ボクサーって、勝ったまま引退することはなかなかできないんですよ。世界チャンピオンでもいつかは敗れて去っていく…自分にもその時が訪れたんだなという思いでした。

新たな人生のスタート。そこで得たものとは?

―ボクサー人生が終わり、ここから第二の人生が始まるというとき、どんなことをお考えでしたか?

  辞める瞬間まで、引退後の人生なんて一切考えていなかったので、ボクシングを辞めてしまった自分には何もなかったんです。なので、「これからどうしようかな?」ということをしばらく考えていました。ただ、今までずっとボクシングをやってきたわけですから、ボクシングに携わっていきたいという気持ちがありました。ボクシングジムの経営をしようとも考えたんですけど、今すぐに始めるというよりは、経営の基本的な勉強をしてみようかなと思いまして。時間もあるし、大学に通ってしっかり学んでみようと。それで大学の夜間部に通うことにしました。

―大学に通われて得たものというのはどんなことですか?

  人との出会いですね。今まで生きてきた世界では出会うことのなかった人たちとコミュニケーションが取れるわけですから。貴重な時間だと思います。僕が通っているのは夜間部なので、会社員や経営者の方もいるんですよ。人生の先輩とも呼べるような方たちと意見交換ができるのはすごく新鮮でおもしろいです。今年(2014年)いっぱいは通わないと卒業できないので、残りの時間でより多くの知識を吸収しなければと思っています。

―大学に通うのもチャレンジだったと思いますが、そんな中、稲城市の市議会議員選に出馬されますよね。それにはどんなきっかけがあったんですか?

  僕の妻が稲城市の出身で、結婚後は僕も稲城市に住んでいました。それが縁で、現役時代に稲城市のみなさんが後援会を作ってくださったんです。引退を決意してお世話になった人に報告にうかがったときに、「これからどうするんだ?」という話になったんですよね。そこで来年市議会議員の選挙があるから出馬してみて、これまでお世話になった地域のみなさんに恩返しをしていく仕事をしてみたらどうかと助言をいただいて。同じタイミングで大学に通うことも決めてはいたのですが、第二の故郷ともいえる稲城でそんな仕事ができたら最高だなと思って挑戦しました。

―未知である政治の世界に飛び込むのは、相当な勇気が必要だったのでは?

  そうですね。でも、まったくわからないからできたというか。引退して何もない状態だったからこそ、新しいことにチャレンジしてみようと自然に思えました。これまでの人生、いろんな人に出会って、その方たちが支えてくれたおかげで世界チャンピオンになれたという想いが強かったんですよね。引退をきっかけに、改めてそう感じていた時期に市議会議員選のお話をいただいたので、ここは自分の気持ちを信じてやってみようと思いました。

理想の街づくりのためにできることから着実に

坂田健史-ファイティングポーズ

―見事当選されて、現在は市議会議員としてご活躍されていますが、どんな街づくりを目指されていますか?

  ずっとボクシングをやってきたので、やはりスポーツを通じて地域を活性化したいという想いはありますね。スポーツのイベントなどをもっと企画して開催していきたいと思っています。僕は今、議員になって4年目ですが、市議会議員の任期は4年間なので、1期目がもうすぐ終わるんですよ。今の時点で自分が地域の人たちにどれだけ貢献できたかな? と考えると、まだまだ1期目ではできないこともたくさんあるんだということを痛感しています。だからこそ、これからも続けていかなきゃ、次回も選ばれる努力をし続けなければと思っていますね。

―今後、地域を活性化していくために考えている取り組みなどはありますか?

  日本では人口が減少傾向にあることが問題視されていますが、稲城市は2010年時点と比較したときに、2040年のほうが人口が増えるという推計が出ています(国立社会保障・人口問題研究所 2013年3月発表)。人口が増えると推測されているのは、東京都全体で9自治体しかないのですが、その中のひとつが稲城市なんです。宅地開発が進んでいるので、子育てを機に引っ越してきたというような若い世代が多いのも特徴ですね。とはいえ、高齢者も少なくないですから、さまざまな年代の人たちが共存できる住みやすい街づくりを実現したいと思っています。例えば、稲城市内にはまだ狭くて整備されていない道路がいくつもあるんです。子どもも高齢者も通るところなので、今のままでは危険だと思うんです。そんな道路の整備を確実に行っていきたいんですよね。市政という括りで語ると小さいことなのかもしれないですけど、僕は地域のみなさんの一つひとつの声を拾って、できることから少しずつ解決するということを心がけています。大きな理想を掲げることも大切ですが、それを叶えるためには小さなことの積み重ねが必要だと思うんです。これは僕がボクサーとして体験して実感してきたことでもあります。一時は嫌で仕方なかった地道な練習を続けたからこそ、世界チャンピオンになれた。政治とボクシングは別物かもしれないですが、小さなことのくり返しが大きな実現につながるということに関しては、共通していると思うんです。だから、僕はこれからも地域のみなさんに密着した取り組みを行っていきたいですね。それが稲城市の明るい将来につながると信じています。それと、稲城市には将来有望なボクサーもいるんです。その選手たちがいつか世界の頂点に立てるようにサポートしていきたいと思います。

[取材/編集/撮影] 鈴木淳也、白井美紗 [編集・執筆協力] 渡辺千恵

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