ブライダル業界初の実績を持つ日紫喜氏が、今また“業界初”達成のために意識すること
- 日紫喜 誠吾(ひしき せいご)
- 株式会社ウエディングパーク 代表取締役社長
1976年生まれ、岐阜県出身。同志社大学工学部エネルギー機械工学科 卒業。1998年に株式会社キーエンス入社。将来の起業を目指し、2000年に株式会社サイバーエージェント入社。インターネット広告事業本部マネージャー、局長を経て、2004年に株式会社ウエディングパークへ(現住所最寄り駅:表参道)。営業本部長に就任する。2005年1月、代表取締役社長に就任。国内・海外の結婚準備クチコミ情報サイト(ソーシャルメディア)を運営。「21世紀を代表するブライダル会社を創る」をビジョンとし、経営理念を「結婚を、もっと幸せにしよう。」と掲げる。2012年8月「就活AWARD2013学生が就職すべき、働きがいのある成長企業」『社員満足度』『働きやすさ』部門を受賞。
業界初、日本初。新たなライフスタイルをつくっていく
―まずはウエディングパークの事業説明をお願いします。
結婚を考えているカップルと式場のマッチングサービスを展開しています。2004年に日本初の結婚準備クチコミサイトとして、サービスをスタートさせました。現在で11年目、ブライダル業界のなかでインターネットサービスを幅広く展開しています。「21世紀を代表するブライダル会社を創る」というビジョンに則って活動しています。
新規事業としては海外挙式のクチコミ・フォトサイト『ウエディングパーク海外』、フォトウエディング情報サイト『Photorait[フォトレイト]』、婚約・結婚指輪のクチコミ情報サイト『Ringraph[リングラフ]』にも力を注いでいるところです。
―仕事のやりがいは何ですか?
世の中へのイノベーションを起こせた時に、やりがいを感じますね。結婚を考えているカップルに向けて、2004年に『ウエディングパーク』がウエディング業界で初めてクチコミサイトを提供しました。当時はカップルが情報を得るためには、結婚情報誌を購入するのが主流だったんです。
でも、雑誌だけではリアルな情報が得られにくい。結婚を失敗したくないカップルにとっては、リアルな情報がほしいんですよね。たとえば、「実は柱が邪魔で新郎新婦が見えにくい」とか「アクセスは良いけれども坂道が多くて年配の方は大変」とか……。
その式場を実際に使用した体験者だからこそわかる情報もありますし、これから結婚するカップルにとっては、人生にとって大事な時間を失敗したくないから見たい・聞きたい情報があったはずなんです。
当時はまだFacebook、ツイッターなどもない時代だったのですが、『@cosme [アットコスメ] 』などの美容系クチコミサイトなどがにわかに注目され始めていたんです。まさにウエディングはクチコミがあった方がいいな、これから求められるだろうなと思って。予想通り、ユーザーもついてきてくれたんですね。
今では結婚情報誌を扱っている企業も、クチコミサイトを展開する時代になりました。ですから、ブライダル業界のなかで弊社が業界初のクチコミサイトをつくったことは、新たなライフスタイルを構築したことでもあります。その実感は今でもありますし、今後も業界初や日本初のものを提案していくことによって、まだまだ世の中をよりよくできると思っています。
―社員の皆さんのやりがいにもつながりそうですね。
そうですね。私のもうひとつのやりがいが、みんなで会社をつくっていくことなんです。社員とともに同じベクトルで、一枚岩になって目標に向かっていくことを大事にしています。
会社のトップとして、組織や会社に一体感をつくることがやりがいです。社風を大事にしていますし、社員にも「カルチャーを強みにしよう!」とよく話しています。
―その想いを、社内に浸透させるために工夫していることはありますか?
常日頃から話すようにしています。サイバーエージェント時代に経営陣から“ワーディングを大事にする”ということを教わったんです。組織を大きくするためには、言葉の力を信じることが重要だと。
ブログや社員総会でスローガンを言葉に落としたり、朝会を行って話したり。会社の環境づくりのために、言葉にすることには時間と労力をかけています。
そして、社員同士も仲のいい会社です。現在、弊社は100名位の組織になっているので、人間関係が希薄にならないように会社のトップとして工夫をしています。 たとえば、コミュニケーションの活性化目的で「部活支援制度」を設けているんです。「マンガ部」「フットサル部」「写真部」など10以上の部活があって、部署や性別、キャリアを超えたコミュニケーションが芽生えています。
社員同士で自然に交流が生まれて、仕事においても意思の疎通がしやすいようです。このように風通しのいい環境も、弊社の社風の特徴ですね。
社長になるために鍛えた、2つのスキル
―キーエンス、サイバーエージェントでの経験は、現在どのように活かされていますか?
対照的な会社だと思っています。1998年に新卒入社したセンサーメーカーのキーエンスは、営業力がとても強い会社なんですね。
同業企業と値引き競争をするのではなく、いかに自社商品に付加価値をつけて顧客に満足してもらうか。企業として利益をどのように生み出すのか。2年間で徹底的に鍛えられました。社長業は“トップ営業”ともいわれますから、実力主義の世界で営業基礎を学べたことは大きかったですね。
2000年から勤めたサイバーエージェントは、いずれ起業したい気持ちがあったので、そのノウハウを修得できる場所だと判断して入社しました。今後伸びそうなインターネット業界であったこと、社長である藤田晋[ふじた すすむ]氏(株式会社サイバーエージェント 代表取締役社長)と私は2歳差ということもあって、自分と近い感覚を持った人のもとで学びたいと考えていたんです。
個の能力を鍛え、合理的に経営するキーエンスと対照的で、みんなで協力して目標達成をする環境でした。仲間の能力を引き出しながら組織として強くなっていく。組織のベクトルを合わせながら柔軟に変化できる、モチベーションの高い組織作りに強みがありました。
サイバーエージェントでは、いかに社員にロイヤリティーを持ってもらって一致団結していくかという“環境づくり”を学びましたね。
藤田氏の考え方を2000年から近くで見てきたので、いざ自分が社長になった時に“社長とは何か“というイメージはつきやすかったんです。今でも岐路に立った時、迷った時はキーエンスとサイバーエージェントでの経験が自分を支えてくれています。
―今までの仕事で大変だったことや苦労したことを教えてください。
ウエディングパークはもともと1999年創設の会社で、2004年にサイバーエージェントがM&Aを行ったことによって私が社長に就任した経緯があります。抜擢された時、自分がやるべき方向として最初に目指したのが、ブライダル業界にクチコミサービスを根付かせることでした。
今のようにインターネットが普及していなかったので、クチコミによる情報発信のメリットを業界に浸透させるまでが大変でしたね。
私としては、ユーザーにとってフェアな情報を発信したいとポリシーを持って取り組んでいたのですが、式場にとっては「壁に穴が空いていた」などマイナスの情報も出てしまいます。業界に浸透するまでクレームの電話をたくさんいただきました。式場で1時間以上のお説教を受けたこともあります。
―式場の意見は、どのように対処されたのですか?
結果的には、ユーザーがほしいであろう情報を発信するために、式場側からの要求に関しては、ご理解いただけるよう努力しました。弊社に広告費を出してくださっている式場にとっては、魅力的な部分だけを情報発信してほしいのも理解できますし、弊社もそちらに特化すれば儲けに繋がるかもしれません。
でも、私自身が結婚した時に正しい情報がほしいと思ったひとりだったこともあり、ユーザーのために必要な情報を発信したかったんです。クチコミが業界に浸透するまでは、葛藤しながら進んできました。
ブライダルビジネスは“天命”。だから信念を貫く
―ブライダル業界で仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
サイバーエージェントが2003年にインターネットメディアに力を入れ始めたころ、ひとつの方向性としてウエディング業界にも目を向けていたんです。
それまで私はインターネット広告事業本部に在籍していたのですが、学生時代からスティーブン・スピルバーグ監督のように、人に感動を提供する事業サービスをしたいという思いがありました。だから藤田氏から社長着任の話をいただいた時は「これは天命だ」と思いましたね。
ウエディングは感動的なシーンですし、幸せと直結しています。自分が理想としていた環境で仕事ができて、夢は叶うんだなと。不安感なく即決しましたね。「人に感動を与えたい」という気持ちが根底にあったからこそ、式場から厳しい意見を言われた時も信念を曲げずに進んで来れたのかもしれません。
―今後、世間の“結婚観”はどのように変わっていくと思いますか?
業界の課題として捉えているのですが、年間66万のカップルが婚姻届を出しているにも関わらず、半分くらいしか結婚式を挙げていないんですね。業界でも、今後はさらに結婚式を挙げる方は減っていくと考えられています。
結婚式を挙げることによって、互いの気持ちを確認し合ったり、親への感謝の気持ちを表したり、“式を挙げること”の意味があると思うのです。だからこそ、その意味づけや素晴らしさを伝えていきたいですね。
―式場にとって有益になる情報をフィードバックすることもありますか?
提案型営業として式場にユーザーのニーズをお伝えすることもありますし、ナレッジを還元するような活動は積極的に行っています。全国で約1500会場と契約をしていますが、ブライダル業界の現状やお客様のニーズを伝える場として、契約会場の経営者に向けた勉強会も設けています。
目線の高い環境に身を投じた学生時代
―学生時代はどのようなことに注力されていましたか?
大学3年生の前半までは一般的な大学生活を送っていました。3年生で研究室を選ぶ時に、社会に出る前に目標を高めてがんばろうと思って、同志社大学にある“世界で5本の指に入る”ディーゼルエンジンの研究室に注目したんです。朝から晩まで研究づめで厳しいと有名で、卒業後は日本トップクラスの自動車メーカーで研究職に就くような人が集まる研究室でした。
「目線の高い仲間と切磋琢磨していかないと社会に通用しないのではないか」と危機感を覚えたんです。楽な研究室よりも、学生最後の研究室しだいで卒業後の飛び立ち方も変わるだろうと。
正直、車に興味があったわけではなかったのですが(笑)、とにかく“世界の5本の指に入る”という実績に惹かれましたね。覚悟を持って来ている仲間に囲まれて、目線の高い環境で自分をジャンプアップさせようと思った意識は、今の仕事観にもつながっています。
―研究室を選んだ時には起業したいと考えていたのですか?
いいえ、まだ考えていませんでした。就職活動で自己分析をして「自分は何をしたいのだろう」と考えた時、やるからには自分を高めたいと。最初から社長になりたいと思っていたのではなくて、自己啓発のような考えですね。
自分を高めるひとつの手段として厳しい研究室に入り、起業を目指し、社長になったという流れです。
―アルバイトはされていましたか?
学生時代のアルバイトでは、特に家庭教師を継続して続けました。そのほかにも調理場の取りしきりなども経験しましたね。チームワークを作って計画を立てながら品質の高いサービスを生み出すおもしろさを見出すよい機会になりました。
がむしゃらだからこそ“めぐり合わせ”が存在する
―仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?
人間として、ぶれずに誠実に……ですね。自分のビジョンや理念を貫くようにしています。そして、社員との向き合い方も誠実でありたいと考えています。
―本日お話を伺っていて、社員同士の距離が近い会社だという印象を受けました。たとえば新卒採用の際は、どのような人材を求めていらっしゃいますか?
私はとにかく社員が働く環境として“カルチャー(社風)”を大事にしています。
もちろん専門技術や能力が高いことに越したことはないのですが、弊社のビジョンである「21世紀を代表するブライダル会社を創る」、経営理念の「結婚を、もっと幸せにしよう。」という考え方に合った人と一緒に仕事がしたいですね。
みんなで一枚岩となって、同じベクトルで前進していきたい。そのため、素直な人柄の方を採用しています。
―現在、日紫喜さんが目指しているビジョンはありますか?
インターネットを活用した21世紀を代表するウエディング企業でありたいですね。“結婚=幸せ”であってほしいですし、共通の感覚だと思うんです。そして日本のみならず、世界にその考え方や価値観を発信していきたいと考えています。
―最後に、これから社会人になろうとする学生に向けて、メッセージをお願いします。
ひとつめは、一番を目指してほしいですね。私が大学の研究室を選ぶ際に、一流の人たちが集まるところを選んだように、目標を高く持って努力することが大事です。
ふたつめは、「どの会社に入ろうか」ではなく「何をやりたいのか」を考えてほしい。前者だと、自分がやりたいことからずれてしまうんです。私もスピルバーグ作品を見て人に感動を与えたいと思った当時の気持ちは、今でも貫いています。
やりたいことに対してがむしゃらに取り組むからこその“めぐり合わせ”があります。だから皆さんも、受け身にならずに、なりたい自分の姿をイメージして行動してください!
[取材・執筆・構成]yukiko(ユキコ/色彩総合プロデュース「スタイル プロモーション」代表) [撮影(インタビュー写真)・編集] 真田明日美