自分の直感に、不正解は何ひとつない
―完璧でいるより、やりたいことを突きつめよう―
- 毛見 純子(けみ じゅんこ)
- maojian works株式会社 代表取締役社長
大阪府出身。早稲田大学第一文学部卒業。ベネッセコーポレーションの営業職を経て、プライスウォーターハウスクーパースにて組織人事コンサルティングを、ボストンコンサルティンググループにて経営戦略コンサルティング職を経験。2007年12月、銀座にmaojian works株式会社を設立、代表取締役に就任。2011年3月、日本製ジャージーワンピースブランド「kay me」創業。同年7月には銀座4丁目教文館ビルにて店舗を開設。その着心地の良さとデザインの美しさが話題となり、2014年7月には規模を拡大し銀座中央ビルにリニューアルオープン。2015年6月、英国法人kay me internationalを設立。ロンドン・メイフェアで1か月間の期間限定ショップを開き、好評を博す。同9月、日本橋タカシマヤ、大阪市梅田ブリーゼブリーゼに、それぞれ常設店をオープンさせた。
働く女性がずっとラクに、そして華やかになる服を求めて
―maojian works(以下、マオジェンワークス)、および「kay me(以下、ケイミー)」についてご説明をお願いします。
マオジェンワークスは主に私がコンサルタントとして、既存のお客様に新規事業の経営・組織戦略やマーケティングについてご相談をうかがっています。
いっぽう自社事業として、働く女性をファッションという側面から応援したいと2011年に立ち上げたのが、日本製ジャージードレスのファッションブランド「ケイミー」です。手洗いができて着心地のよいジャージー素材を使ったワンピースやスーツを、日本人の体系・顔色に合わせたデザインで提供しています。価格帯も3~5万円ほどに抑えています。
がんばっている女性が時間を気にせず、着ている間はずっとラクで華やかでいられるという世界を広めていきたい。それが弊社のミッションの1つになります。
もう1つの大きなミッションは、日本の縫製産業を盛り上げていくということ。日本製にこだわっていまして、「ケイミー」専属の縫製工場が東京都の練馬区にあります。「ケイミー」を通して、日本の高いものづくり技術を伝えていきたいんです。
―起業をしたいと思ったのはいつごろからですか?
就職活動をしている時からありました。新卒でベネッセに入社し、そこで私は教育業界の営業職として働きました。若者にも大きな裁量権を与え、本人の意思決定を大事にする環境でしたので、とてもやりがいがありましたね。
でも、いずれ起業するなら、経営に関してもっといろんなケースを俯瞰的に学んでおくべきだろうと、プライスウォーターハウスクーパース、ボストンコンサルティンググループでコンサルティングを経験しました。
そこで十分にコンサル業を学べたかな、と思えたのを機に独立し、2007年にマオジェンワークスを創設しました。
―「ケイミー」を立ち上げたきっかけについてお聞かせください。
2011年の東日本大震災のことがあります。何もかもなくなってしまったのを目の当たりにして「何か物を残したい」という想いに駆られたんです。
―ものづくりの事業として、アパレルに焦点を当てた理由は何ですか?
毎日、朝から晩まで仕事をして睡眠時間はごくわずか、という生活をしていましたので「長時間着ていても体が疲れず、ビジネスシーンでも着こなせる服」を探していました。そこで見つけたのが、欧米ブランドのジャージードレスです。
伸縮性があって疲れにくく、色柄も華やかでしたが、丈が短く胸元が開いていてビジネス向きでなく、しかも1着10万円するほどの高価格。気に入っていましたが不満はありました。
そんな時に大震災があり、自粛ムードでコンサルタントの仕事はほぼすべてペンディング(保留)になってしまいました。でも私は、こういう時にこそ新しいムーブメントを興して経済を回すべきだと考えていたんです。
私が新しい事業を立ち上げ、経済発展の一端を担いたい。物を残したい。……それらの想いがつながって「日本製のジャージードレスがないなら、私がつくろう」と思い至ったんですね。
―なるほど。コンサル業とは全く違う領域かと思いますが、そのスキルが活かされたことはありますか?
マーケティングのコンサルをするなかで、世の中にないものに目をつけることが重要だと感じていました。ですので「服をつくろう」と思い立ったその日のうちに市場調査をしたんです。
すると、日本には女性の働く能力、ビジネススキルの向上を応援する事業はたくさんあるものの、女性らしさや女子力、とりわけ「ファッション」という側面に特化して女性を支えるコンセプトを掲げているところは、どこにもないことがわかったんですね。
世の中にないものがつくれると確信し、その日のうちに「ケイミー」を立ち上げることを決めたのです。
仕事熱心で、輝いていた祖母。その姿と教えに感化されて
―働く女性を応援したいと思ったのには、ご家族の影響があったとうかがいました。
私は着物屋を営む祖母の家の近くに住んでいました。私は大阪出身ですが、祖母は京都のお寺の家に生まれた人で、とても仕事熱心でした。私は祖母からことあるごとに「仏様の教え」を聞かされまして(笑)少なからず影響を受けたんです。
女性はライフイベントが多く、仕事をするうえで枷となるようなものが多いと思いますが、自分の仕事に納得して働いている人って文句を言わないし、オーラが明るいんですよね。
祖母のように仕事に前向きな女性が増えたらとても健全な社会になるはずだと、子どものころから感じていました。
―おばあ様からは、たとえばどのようなお話を?
一番大きく影響を受けたのは「体は“借り物”にすぎない」という教えです。たとえフェラーリのようないい車を持ったり、目黒にすごい豪邸を建てたとしても、結局はすべてこの世に置いていくもの。体ですらそうなのだから、物を多く持ったところで自分の人としての価値は、あまり変わりはないんだと。まさに仏教の思想ですね。
人には、生まれた時からそれぞれ身の丈にあった役目があり、それをどれだけ現世でまっとうできるのか。それを考えながら生きるかどうかで、最後に問われる人としての資質が、大きく違うんだと。……そんなことを、子どもの時に言われていました。
―子どものころから……深いですね。
でも、10代の時なんかそんなの「ふーん」程度に聞いていたんですが、30代越えてから思い出すようになったんですよね。
事業を拡大するにしても、結果的に広いお家を2、3軒建てていい暮らしをする、というよりは、この「ケイミー」という事業を世の中に役に立てていきたい。そのうえで事業を広げていけるようになりたいな、と考えています。
「ケイミー」のドレスデザインの源泉は、“生活のなかの美”
―「ケイミー」のドレスは日本の伝統美をイメージしたデザインを積極的に取りいれられています。それは美しい着物や反物に幼いころから触れていた経験による影響があったと思われますか?
幼いころの経験からこの事業を始めたわけではありませんが、無意識にでも影響を受けたのかもしれないと今振り返れば思いますね。伝統美はもちろん、反物そのものの美しさ、それを目にするお客様の笑顔がすごく素敵だったという記憶があります。
仕事をバリバリこなしている女性が美しい服を着てオフィスにいれば、目にする人も華やかな気持ちになって、自然と笑顔になりますよね。そこにぱっと花が咲いたような、あるいは鳥や蝶が舞っているような……そういう“彩りを添える”というひとつの役割を、「ケイミー」のお洋服が果たしているんだなって。
―デザインの着想はどこから得られているんでしょう?
博物館や美術館へ行くとよく浮かびますね。特に一般に開放されている洋館の柱の彫り物や壺のデザインを見ると、「これ、来季のワンピースの図案にならないかな」と考えたりします。古くからあるような“生活のなかの美”に魅かれるんです。アンティークのお店を見つけると、ついふらふらっと行っちゃいますね(笑)。
実際にイメージを起こす時は、着る人よりも着る「シーン」を思い浮かべます。たとえば「昼に男性50代以上の人が100人くらい来るプレゼンがあって、夜に懇親会がある場合に着る服」とか。周囲の反感を買わず、女性として常に自信を持って輝ける服になるよう、丈やデザイン、色や素材を決めています。
―デザイン面で特に意識されていることは何でしょうか?
そうですね。その年のトレンドを追うというよりも、今年も来年も、自分が着てみて一番きれいに見える服だとか、その時々のベストコンディションでいられるための服になるように意識してデザインしています。
サークル活動で培われた、有を生み出すパワーと社会貢献精神
―毛見さんの学生時代についてお聞きします。一番注力されていたことは何ですか?
早稲田大学で、いろいろな社会問題をテーマにしたイベントを開催するサークルに入っていました。私が扱ったテーマでは、HIV、薬害エイズ問題がありました。
同じHIVでも様々なケースがあり議論も混沌としているなか、どのようにすれば予防できるのか、どう人に伝えていけばいいかを考えました。いろんな人を取材して感銘を受けるいっぽう、思想がぶつかりあって反発されたりと苦労もありましたが、無のなかからいろんな意見を取り入れて、形あるものをつくりだしていくという活動は貴重な経験で、おもしろかったですね。
―おばあ様の影響もあったのかもしれませんが、そのような“社会に貢献する”、“人の幸せのために働く”という意識が、その時に育まれたとは?
それはありますね。結局、自分自身の幸せなんて、多少知れていると思っていて……というより、私はずーっと幸せなんですよ(笑)。何か問題があってもそこから学べるものは必ずあるし、そこから「次はステップアップできるはず!」と思えちゃうので。自分の幸せは、常に充足しているんですよね。
―素敵ですね! ちなみに、アルバイトの経験はいかがですか?
私は18歳の時に家を出まして、生活費はすべてアルバイトでまかなっていました。朝5時から理工学部近くにあるセブン-イレブンで3~4時間働いてそのまま大学の授業に出て、午後からはサークル活動をするか、家庭教師のバイト。深夜は飲食店で働いて、3、4時に上がってちょっと眠って、5時からまたセブン-イレブンでバイト、みたいな。 ひたすらバイトとサークルと、なんとも早稲田っぽい、ゆるゆるの大学生活だったんですね。
―とてもゆるゆるには思えないです(笑)。アクティブな方とはうかがっていましたが……!
いえいえ、あまり激しくエネルギーを使わない、省エネモードで過ごしていましたよ(笑)。
人の顔色をうかがわず、言いたいことの言える自分をつくろう!
―仕事をするうえで、毛見さんがポリシーとしていることはありますか?
自分が「正しくないな」と思ったことはやらないこと。たとえいい提案であっても、自分のなかで「無理だ」と思ってしまうようなことは、結局続かないですから。
人を騙したり、酷使したり、虐げたりして何かを得るということもしたくないですね。それは世の中によくないことをしているので、まわりまわって必ず自分に跳ね返ってきます。そういった意味で、「正しい」と思えることを常に選択していきたいと考えています。
―現状、働く女性を取り巻く環境に関して、毛見さんが感じていることはありますか?
私は女性はラッキーだと思っています。着る服も仕事の在り方も、男性に比べて許容範囲が広いと感じますし。
男性のほうが同性から見られる目って厳しい気がするんですよね。着る服もスーツじゃないといけないとか、フリーランスで働いていると同窓会で肩身が狭いとか……その点、女性は遠慮しなくていい部分があるので、女性でよかったなって思っています。
―仕事や家庭、育児を両立させようとがんばりすぎてしまう女性が多いと耳にしますが、その点はいかがですか?
何でも「ヘルプミー!」って言える女性は強いなって思いますね。私の友人にも小さな子どもを抱えながら仕事をしている人がいますが、よく子どもを誰かに預けています。全然、子育てしているように見えないくらい(笑)。友人みんなで子育てしている感じですね。
でも彼女は自分の限界を知っていて、助けをいち早く求められるいい意味での“図太さ”があるんです。子どもは子どもでそれを受け入れていて、人のお家で過ごしたことをママと話したりするし、とても幸せそうなんですよ。
誰にも迷惑かけちゃいけないからあれもこれも我慢する、それで子どもに対してイラッとしてしまう……という悪循環になってしまう前に、そうやって「ヘルプミー!」ってハッキリ言える環境と人脈づくりを、20代の時からやっておくといいかもしれません。
―ありがとうございます。最後に、若い人にメッセージをいただけますか?
人生は短いという前提を持ったうえで、マナーや礼儀をつくしながらも精いっぱい、やりたいようにやってほしいと思っています。
怒られないように、失敗しないようにと、人の顔色をうかがいすぎる人が多いんですが、そもそも人ってあなたのことをそこまで気にしていないし(笑)。かえってそういう人のほうが、抜けていたりするんですよね。
ですから完璧でなくても、もっと自分を解放して、直感的に、やりたいことを突きつめてほしい。やりたいことをやろうとがんばっている人って年上の人から見ると好ましいし、「応援してあげよう」という気持ちになります。
自分を信じ、直感に従って生きてみてはいかがでしょう。直感に不正解は、何ひとつありませんから。
[取材・執筆・構成・撮影]真田明日美