創業メンバーは京大大学院で発掘!『ガールズマガジン』を生んだ、ゆめみ片岡氏の起業秘話
- 片岡 俊行(かたおか としゆき)
- 株式会社ゆめみ 代表取締役
1976年大阪府生まれ。1998年、京都大学在学中にチャットサービス『ゆめみ亭』を開設。99年6月には利用者が100万人を突破する。2000年1月、株式会社ゆめみ(東京本社最寄り:三軒茶屋)を設立。 2001年5月よりモバイルコンテンツ事業を開始し、株式会社ゼイヴェルと日本初のメールマガジン発行サービス『ガールズマガジン』をオープン。1年間で総読者数1000万人突破した。以後もモバイルコンテンツを中心に、数々の大企業へ企画・開発・運営支援を行っている。
BtoBtoC企業として、世界中に愛されるサービスを生み出すために
―ゆめみの事業内容についてご説明をお願いします。
法人向けのサービスプラットフォームの開発、運用をワンストップで手がけています。企業がデジタルマーケティング戦略の中でスマートフォンのアプリケーションやWEBサービスを立ち上げる際、ゆめみがそのお手伝いをしています。取引先は主にメーカーや小売、流通業などの大手企業様が多いです。
―ゆめみにとって、事業発展の契機となったものは何ですか?
2008年に、日本マクドナルド社のサービスプラットフォームを成功させたのは大きかったと思います。日本最速の携帯向けメール配信エンジンの導入をきっかけにして、かざすクーポンを初めとした実店舗と連携するCRM(※1)サービスの成功に向けて他社パートナーとも連携して協力させてもらいました。
ミッションクリティカルな業務でしたが、今までのノウハウを活かしつつ、世界的にも最先端の技術が使われました。これがきっかけでたくさんの企業様と取引が広がっていきましたね。
―創業して今まで、特に苦労したことといえば何ですか?
起業当初が最も苦しかった気がします。創業メンバー含め全員、社会人経験のない学生だったので、ビジネスをする上でベースのない状態というのはキツかったです。「見積書」や「稟議書」の意味すらわからなくて……労働時間はこのころが一番多かったかも(笑)。
ITに強いメンバーで構成されていましたから技術力はあるし、インターネットサービスを立ち上げること自体にさほどお金はかからなかったんですが、ビジネス「そのもの」はすごく大変なんだなって思いましたね。でもその分、一般的な企業にはない、オリジナリティのある風土や仕組みが整えられたのではないかなと思っています。
―貴社の今後のビジョンがあれば教えてください。
エンドユーザーの方々に、ずっと使っていただけるようなサービスを今後もつくっていきたいと思っています。具体的な数字でいうと、MAU(※2)が1億人いるサービスを生みたいですね。
BtoBtoC(※3)企業として、「ゆめみが関わっているからこのサービスが成り立っている」「ゆめみだから、いいものになっている」と、そう言われるような存在になりたいですね。
最初は研究者を志すが、様々な出会いをきっかけに……
―先ほどもお話に上がりましたが、片岡さんといえば学生起業をしたことでも知られています。100万人のユーザーを生み出したチャットサービス『ゆめみ亭』を立ち上げ、起業に至るまでには、具体的にどのような経緯があったのでしょう?
もともとビジネスにさほど興味はありませんでした。京都大学では物理や数学を専攻し、研究者や学者を目指していたんです。だから入学した当初から就職する気がなくて(笑)。
大学1年の18歳の時、アルバイトをしようと、あるアミューズメント施設のスタッフ募集のビラを見つけて連絡しました。結構時給もよくて(笑)。すると、そのオーナーの方と意気投合しまして、自分も一緒に事業の立ち上げに関わることになったんです。
スタッフとして働きながらも、不動産選びからアルバイト採用までやらせてもらいました。「ビジネスっておもしろいな」と感じ、就職する方向もアリだな、とその時、思えたんです。
それから2年後の1996年、大学3年生の時に、ジョブウェブさん(※4)が就職活動生のためのメーリングリストサービスを始めていました。具体的には就職活動に関する情報共有などをしていまして、私はそのコンサルティング業界を目指す人が集まるメーリングリストの管理人をしていたんです。
それから起業家の方と接する機会も多くなり、人脈が広がっていきました。それと並行して、1998年、大学生の時にチャット用ポータルサイト『ゆめみ亭』を立ち上げたんです。起業ではなく私個人で始めたサービスでしたが、将来的に、インターネットビジネスに可能性があるだろうと。
でもジョブウェブをきっかけに知り合ったビットバレーの起業家が活躍していくのを見るにつれ、「これは就職している場合じゃない、すぐにでも起業しなくちゃ」と感じました。
でも1人では限界があるし、そのためにエンジニアが必要だと思いましたので、優秀なエンジニアを見つけるため、大学院に進んだのです。
―大学院に入ったのは、創業メンバーをスカウトする目的だったということですか?
そうなんですよ。そうして大学院に入ったある時、スタンフォード大学の学生と交流する機会がありました。彼らは確かに優秀でしたが、正直「技術的な能力は、僕ら日本の学生と変わらないな」と思いました。でも、僕らと決定的に違ったのは、彼らは学生のうちから積極的に事業を立ち上げ、起業していること。
日本も見渡せば優秀なエンジニアはたくさんいる。でも、その多くは推薦で大企業に就職し、歯車となって取り込まれてしまうんです。……この仕組みは絶対違う、本当にもったいないことだと感じていて。メンバーに欲しい院生を見つけては、口説き続けていました。
起業しようと決意したきっかけはいろいろありますが、そういう経緯があり、大学院在学中に「株式会社ゆめみ」を立ち上げました。
批判されながらも、学生起業のフロンティアを切り拓く
―ゆめみは「大学発ベンチャー」と話題になりましたね。
当時はずいぶん、批判されましたよ。学校側としては、手塩にかけて教育した生徒を大企業に行かせるつもりだったのに、勝手に社員に引き抜いたわけですから。しかも、研究室に寝泊りしながら起業活動をして。教授にすごく怒られました(笑)。
今でこそ「大学とベンチャーは連携していこう」と大学側も理解が進んできましたが、私の時はまだ過渡期でしたから……大学発、というより大学「脱」ベンチャーでしたね(笑)。
―学生で起業をすることに、不安はありませんでしたか?
サービスを立ち上げること自体は趣味の延長のようなものでしたので、その部分は楽しくやれていました。最初の1年目は確かにそれでよかったのですが、2年目は創業メンバーである社員……同級生でしたけれど、みんなちょうど就職活動を始めて、進路を定めるタイミングでして。その時はさすがに、背負うものの大きさに相当、悩みましたね。それでストレスに感じすぎたのか、急性胃腸炎を起こしてしまいまして……。
あとでこのことを経営者の知人に話したら「ああ、よくあるよくある」って(笑)。そうか、よくあることなんだ、って思ったら、急に肩の力がフッと抜けまして。
この時よりも、もっとずっと大変なことがたくさん起こったわけですけど、そのたびに「なんとかなる!」と。そう考えられるようになりました。
―学生のうちに起業したいという人にアドバイスはありますか?
昔はある程度の自己資本が必要でしたが、今はアイデアと、それを実現するためのメンバーがいれば、プロトタイプの段階でもスタートアップとして資金調達できる環境が整っていますので、挑戦しやすいと思います。とにかく、一番肝なのは「人」ですね。
メンバーを集めるためには、たとえば起業を目指す人のためのセミナーやイベントなどにどんどん参加するなど、できるだけ人と会う機会を増やすことです。何かしら「やりたい!」という気持ちがあれば、きっと見つかると思います。
幅広い「技術」を、積極的に取り入れられる人材がほしい
―起業当初はPC用サイトコンテンツがメインだったと思いますが、すぐにモバイルへと軸を移していますね。
もともと、1億人の人に向けてサービスを発信したいという想いがありましたし、i-modeといったインターネットサービスが普及し始めた時代でしたので、これからはPCよりもモバイルが中心となるだろうと考えました。
結果として「ガラパゴス」といわれるような状況になってしまいましたが、当時は日本のモバイルサービスは世界的に見ても先進的なものでしたし、世界に向けたサービスが生み出せるだろうと思ったのです。
―携帯メルマガ『ガールズマガジン』、携帯コマースサイト『ガールズショッピング』を立ち上げた経緯についてお聞かせください。
もともとはゼイヴェルという、『ガールズウォーカー』を運営していた会社とパートナーを組んだところから始まりました。ゼイヴェルはエンタメ系、特に2~30代の女性層の流行に強く、広いネットワークを持っていたので、そこでゆめみの技術力が合わさればおもしろいのではないかと。
PCインターネットサービスの歴史を振り返ると、コンテンツ、コミュニティ、コマースという順番でヒットが来るという持論がありました。モバイルインターネットサービスが各所で立ちあがってきていた当時、まず着メロや壁紙といったコンテンツ事業があり、それからeコマース(電子取引)事業はまだ来ていませんでした。
僕らが参入するところはどこがいいか、と思ったなかで着目したのが、その間に入るコミュニティ事業。……メールマガジンでした。メルマガはPC用サイトがあったもののモバイル向けのものはなく、ここへ展開してユーザーを獲得できれば、eコマースのほうへマネタイズできるチャンスがあるのではないかと。
―これから事業を拡大していくうえで、御社が求める人材像や、御社で働いていてのびるスキルを教えて下さい。
職域や職務内容を限定せず、幅広く業務をこなすことを推奨しています。ですのでエンジニアの人でも営業に出ますし、営業の人でも要件定義をしてもらったりします。弊社の経理担当もプログラミングを勉強していまして、Javascriptで社内用ツールをカスタマイズしたりしていますよ。
弊社ではエンジニアの技術だけではなく、営業も、管理の業務も、いろんな職種の人が持っているものをすべて「技術」とし、再現可能な能力として定義しています。それらの「技術」を身につけられる環境が弊社にはありますし、そのうえで幅広い経験を積むことができると思います。こういったことを抵抗なく受け入れられる人に、是非入ってほしいですね。
―何か、特別な教育プログラムはあるのでしょうか。
弊社では役職者1人に責任が集中するような形を取らず、本人が判断できることに関しては自己判断する、という方針をとっていますので、特別にこちらから教育をする、マネジメントすることはしていません。正確に言うと、「マネジメントの分散」「セルフマネジメントの強化」を意識しています。
必要な経験、技術を身につけるためには、仕事を通じて学ぶことが一番です。ですので「これをやりたい」と思っている人には、積極的に手を挙げてもらっています。もちろん、必ずしも希望したプロジェクトに参加できるとは限りませんが、少なくともそういった判断を自分でできるというのは大きなメリットではないでしょうか。
「自己判断」というと、失敗した時に罰金とかペナルティが課せられると感じてしまうかもしれませんが、そういうことではありません。責任を持つことで、“周囲からの信頼” につなげてほしいのです。
ですから、採用面接では自分の頭で考えられる人、自分から学ぶ姿勢を持てる人かどうかをよく見るようにしています。
本気で悩んで導き出した答えに、間違いはない
―片岡さんにとって、“仕事”とは何ですか?
“学び”であり“誰かのために貢献すること”かな、と思っています。 仕事をしている間は「学び」を意識しているんですけど、その先のゴールを見据えた時には、「誰の役に立っているのか」ということを考えるようにしています。
それと僕にとって仕事は「人生そのもの」になっていて、仕事とプライベートも密接につながっています。もともとモバイルやインターネットという業界は他業種、多方面で関わり合うものですから、「自分の趣味やプライベートの範疇はここまで」と限定してしまうと仕事での可能性を狭くしてしまうので。そういう意味でも、仕事とプライベートって、なかなか切り離せないなって思います。
―最後に、仕事に関して悩みを抱えている若い人へ、メッセージをお願いします。
経営者だからというせいもあるかもしれませんが、自分自身、悩みがあってもなかなか人に相談しなかったところがありました。でもある日、ある重要な局面でどうしても判断ができず、役員や創業メンバーを集めて、思い切って悩みを打ち明け、相談したことがあったんです。
そうしたら、他のメンバーも悩むんですよね。「これは本当に難しい問題だと。「ああ、彼らも悩むほど、この問題は難しいんだ。これは悩んでいいことなんだ」ということをこの時、確認できて。それからはニュートラルな目線で問題に取り組めるようになり、すんなり意思決定ができるようになりました。
その時学んだのは、“悩ましい問題というのは一生懸命考えた末に生まれてくるもの。最終的にどちらをとっても同じくらい正しいことだ”ということ。仕事をしていると、キャリアアップや人間関係、業務の進め方とか、あらゆる悩ましい問題が出てきますけれど、それは自分が本気で、その問題に取り組んでいる証拠なのです。
悩んだ時は、どう判断するにせよ、自分が出したその答えが正しい。そう受け取ってもらえたらいいんじゃないかなと思います。
[取材・執筆・構成・撮影(インタビュー写真)] 真田明日美